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【デイリーニュース】vol.18 『螺旋銀河』 草野なつか監督 Q&A
「相手の言葉をよく聞いて、自分の言葉を返して」
草野なつか監督
22日(火)、映像ホールでの最後の上映は、長編コンペティション部門に出品された日本映画3作品中、最後の上映となった『螺旋銀河』。Q&Aに登壇した草野なつか監督は、難しい質問にも堂々と持論を展開。本作での映画祭参加はSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で3つめ。「上映回数とともに成長させてもらっている」の言葉通り、監督として完成した作品にいま一度対峙し、何かを掴みつつあるようだ。
シナリオ学校の課題を、誰かと“共同”で仕上げなくてはならなくなった自己中心ぎみの綾は、ひょんなことから話をするようになった総務部の幸子に声をかける。共同という名目さえ果たせればいいと思っている綾には、無口で地味な幸子が都合よく思えた。しかし仕事を進めるうちに、幸子が自分の世界をきちんと持ち、シナリオへの助言も適切であることがわかる。自分から声を掛けたにもかかわらず苛立つ綾。さらに幸子と綾の思いがけない接点が明らかになり、様々な事実と感情に揺さぶられながら、二人の関係は変化していく。優越感と劣等感、憧れと嫉妬を軸に、正反対な二人の女性がひとつの深夜ラジオドラマを共同執筆していく。
「あなたのように食べ、あなたのように見ることができたらいいのに」「私たちには反対の方法で開けられた同じ穴があいているのかもしれない」など、シナリオを執筆する物語だけに、記憶の襞にじわじわと染み込んでくるような、繊細かつ印象的な台詞の多い本作。脚本作りの描写には、共同脚本の高橋知由とのエピソードも織り込まれているのかという質問に、「彼は男性ですし、内容には影響を及ぼすようなことはありませんでしたが、高橋は構成力に長けている脚本家なので、私はそれ以外のキャラクター造形や関係性などに注力することができました」と草野監督は答える。フランス映画における、シナリオとダイアローグのよう(もしくはもっと複雑)な関係性なのだろう。
「人間、特に女性の関係性の変化を描きたかった」という本作の人物造形についての質問には、「綾は人を見下しているエゴの塊のような人に、幸子は控えめで身の丈に合った生き方をしているように描いた」という。しかし、二人を演じる俳優にはそれぞれ、「綾は自分に自信が持てず、幸子は心のどこかで同僚や綾をバカにしている」と説明したのだそう。
そんな女性二人の重要な舞台として登場するのがコインランドリー。コインランドリーを選んだ理由は、たまたま執筆に煮詰まった時に見かけたからだというが、「コインランドリーは幸子にとって、同僚のくだらない噂話という宇宙空間から逃げられる宇宙船のような存在。宇宙空間では宇宙船の中に居れば安全。本編の中では異質な場所でしたが、一番やりたいことができた場所でもありました」。コインランドリーは、タイトルにも影響を及ぼした。当初、英語タイトルとなっている「アントニウム(=反意語)」で進んでいたが、コインランドリーの回転や上昇、宇宙、そして二人の関係性のイメージから『螺旋銀河』にしたのだそう。
コインランドリーが決まったことで、もうひとつ変わったことがあった。当初、重要であったラジオドラマの比重だ。しかし、いくら比重が小さくなったとはいえ、最後を「二人の物語をラジオドラマに反映させ、ドラマで進んだ関係性を実際の二人にも反映させる」構想から変えるつもりはなかった。俳優たちに指示したのは、「相手の言葉をよく聞いて、自分の言葉を返して、ということだけでした」と監督。スタジオの闇の中で二人だけの芝居が続くこのシーンは、互いの声を聞くという、コミュニケーションの根源を示すものだった。
草野監督がロケーションとして提示する場所は、駐車場、コインランドリー、レコーディングスタジオと、そこにものがなければただの空間であるものが多い。しかしひとたびそこに何かが収まると、宇宙を思わせる大きな物語が動き出すような気がするのだ。
人間を描くことで、宇宙をも描く『螺旋銀河』は、7月26日(土)にも11:00から多目的ホールにて上映される。