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【デイリーニュース】 vol.04 『愛する人へ』ペアネレ・フェシャー・クリスチャンセン監督 Q&A
「真実を描きながら、さらにその上の次元のものを見せたい」
ペアネレ・フェシャー・クリスチャンセン監督
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2014は2日目を迎え、いよいよコンペティション参加作品の上映が始まった。長編部門のトップバッターは、デンマーク作品『愛する人へ』。本作のペアネレ・フェシャー・クリスチャンセン監督は、長編監督デビュー作『A Soap』で2006年ベルリン国際映画祭・銀熊賞と最優秀新人賞を、『A Family』では2010年の同映画祭で国際批評家連盟賞を受賞するなど、すでに国際的に高く評価されている。
『愛する人へ』は、世界的成功を収めたシンガーソング・ライター、トーマスが、レコーディングのためアメリカから故国デンマークに戻ってくるところから始まる。長年疎遠だった薬物中毒の娘に金の無心をされ、さらに彼女がリハビリ施設に入る間、11歳の孫ノアを預かることになってしまう。これまで好き勝手に生きてきたトーマスは、娘にもノアにもどう接していいかわからない。トーマスとノアがやっとうち解け始めた頃、悲劇が起こる……。
まず衝撃的なのは、きちんと仕事をし、一見普通の良き母親に見える娘が、薬物中毒に苦しんでいるという設定だ。上映後に行われたQ&Aでも、デンマークにおけるドラッグ問題について質問が出た。
「デンマークに限らず西洋の多くの国が同じ状況だと思いますが、ほとんどの家庭に何がしかの依存症の人が1人はいます。トーマスの父親には飲酒と暴力という問題があり、トーマスにも薬物中毒の過去がある。傷ついた孫を休ませようとしてトーマスが与えるのは睡眠薬です。本当に必要なのは抱きしめてあげることなのに、トーマスにはそれができない。そういう小さなことの積み重ねで、問題が次の世代に継承されていってしまうのです」
トーマスを演じているのは、クリスチャンセン監督が「スウェーデンのナンバーワン・スター。ジェームズ・ボンドみたいな人」というミカエル・パーシュブラント。日本では『未来を生きる君たちへ』で知られる俳優で、本作では全編で歌も披露している。
「彼には歌の経験がなかったので、ずいぶん練習しました。私は映画を撮る際、美学よりも、人間の経験を描くことを大切にしています。真実を描きながら、さらにその上の次元のものを見せたい。トーマスのキャラクターには、特にモデルがいるわけではありませんが、キャラクターの全体像をリアルに描くためによく話し合い、映画には出てこない背景の流れを作っていきました。50歳という設定のトーマスが育ったのは80年代のパンクの時代。パンクはロマン主義にインスピレーションを得ていますし、彼がロマン主義時代のお城に住んでいるのもそれと関係しています。彼はお城に住む王様で、王様はインスピレーションの源である神と直結しているんです。撮影に使ったお城は、かつて童話作家のアンデルセンが滞在したこともあるそうです」。
孫のノアを演じたソーフス・レノヴも、セリフは多くないながら、目の表情が非常に印象的で、パーシュブラントと互角の演技を見せる。
「子役を使う時に一番大事なのはキャスティングです。今回も300人の候補に会いました。大人の俳優と仕事をするのと子役とでは全く違います。大人の俳優とは、役柄を分析し理解するためにたくさん話し合いますが、子どもはピュアなので、見た時に見えるものが、撮影の時に出してくれるもの。すでにノアの表情を持っている子を探しました。そして撮影する際は、彼が安全と感じられる場所を必ず作るようにしました。それがあれば、自由に感情を表現できるからです。傷ついたノアが自分の頭をテーブルに打ち付けるシーンを見て、演じる子どもも傷ついたのではないかと心配する人もいましたが、実際には、撮影の10分後には外でサッカーボールを蹴って遊んでいたんですよ」
『愛する人へ』は、22日(火)17:30から多目的ホールでも上映される。