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【デイリーニュース】 vol.06 『短編③』 Q&A
『うまれつき』『押し入れ女の幸福』『変態 ~metamorphose~』
左から『変態 ~metamorphose~』松本剛監督、『押し入れ女の幸福』太田いず帆さん、大橋隆行監督、『うまれつき』楊原京子さん、エマニュエル・オセー・クフォー Jr.監督
20日(日)午後、国内コンペティション短編部門の3グループ目となる『短編③』の上映が行われた。この回では『うまれつき』よりエマニュエル・オセー・クフォー Jr.監督と教師役の楊原京子さん、『押し入れ女の幸福』より大橋隆行監督と押し入れ女役の太田いず帆さん、『変態 ~metamorphose~』より松本剛監督が登壇し、作品を観たばかりの観客と質疑応答の時間を持った。
『うまれつき』は、肌の色が黒いアフリカ系日本人の小学生が、田舎町の転入先でクラスメイトたちから偏見の洗礼を受けながらも成長していくストーリー。日本在住のアメリカ人であるクフォー監督が、ニューヨーク大学大学院の卒業制作として撮った本作は、どんなに国際化が進んでも人間が本能的に抱いてしまう差別意識に目を向ける。市川準や岩井俊二、是枝裕和など日本の映画監督が好きで影響を受けたというクフォー監督は、日本に住めばその世界をもっと理解できるのではとの思いから来日し、自らにとっても異国の地でこのテーマに取り組んだ。「どんな問題が起こっても、子どもたちが自分を信じて生きていけるようにという願いを込めました。現場では子どもたちの演出にアドリブも取り入れたことで、リアルなニュアンスを引き出せたのでは」と語った。
『押し入れ女の幸福』は、押し入れの中で暮らしながら、ある家族を通して人類を見守る謎の女性と、襖一枚を隔てて彼女の食事の世話をする家族(および人類)との、世代をまたいだ魂の交流を描く。人間のような姿をしているが、人間とは違う生き物を演じた太田さんは、言葉ではなく表情や仕種でその不思議な存在感を表現している。“押し入れ女”のフレーズからスタートしたというこの企画だが、客席からは彼女が“女性”である理由について「やはり命を育んでいく存在だから?」という質問が。それに対して監督のほうが「実はこれといった理由はなかったのですが、今日からその説を採用したいと思います(笑)」とうならされるという一場面もあった。ティム・バートン作品が好きだという大橋監督だけに、ファンタジーとダークな要素の入り交じった世界観が魅力でもある。
『変態 ~metamorphose~』は、松本剛監督自らが「ファンタジックな少女たちを少々乱暴に描いた」と述べたように、心も体も不安定な思春期の少女たちの揺らぎを昆虫の変態になぞらえながらフェティッシュに見つめている。「彼女たちが最終的に何になるかではなく、何ものかになっていくその過程を描きたかった。エンディングの後も彼女たちは変わり続けると思う」というラストも奥深い余韻を残す。観客から「話はわからないが、その分いろいろと想像させられる余地がある」と評された作風が特徴的な松本監督は、敬愛する監督としてダルデンヌ兄弟の名を挙げた。
監督陣もたじろぐ鋭い意見や質問が積極的に飛び交い、活気あふれるものとなったティーチイン。『短編③』は24日(木)17:00に映像ホールでも上映される。