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【デイリーニュース】vol.17 『約束のマッターホルン』 ポーギー・フランセン Q&A
「この映画には現代人の抱えるさまざまなストレスが象徴的に描かれている」
出演者のポーギー・フランセンさん
長編コンペティション部門出品作『約束のマッターホルン』は、孤独な生活を送る男が、自らの殻を破り人生を再発見していくドラマだ。
妻に先立たれ、ひとり静かに暮らす中年男性フレッドは、教会通いを欠かさず一秒の狂いもない規則正しい生活を送っていた。しかし、謎の男テオを自宅に招き入れたことから、彼の人生は大きく変わり始める……。
本作はもともとテレビ用につくられたテレフィルムだったが、2013年のロッテルダム国際映画祭観客賞をはじめ、第35回モスクワ国際映画祭で観客賞、ロシア批評家会員最優秀賞、ロシア映画クラブ連盟賞最優秀賞を受賞。オランダ国内での評価も高い。
上映後のQ&Aには出演者の一人であるポーギー・フランセンさんが登壇。「今朝、アムステルダムから息子と二人で来ました。分からない質問は、映画学校に通う息子に答えてもらいます(笑)」という第一声で、会場はとても和やかなムードに包まれた。
演劇出身のポーギーさんが演じたのは、フレッドの近所に住む真面目で厳格な信者だが、誰にも言えない「秘密」を抱えた物語の重要な鍵を握る役でもある。一筋縄ではいかないその役柄を、どのようにとらえて演じたのかという質問には、「複雑な役だったが、いつも何も考えずに演じるようにして、直感的なプロセスを大事にしています」と独自のメソッドを明かした。
監督のディーデリク・エビンゲは現代音楽・演劇・ドラマを学び、多数のドラマや映画に出演して俳優としてのキャリアを積んだ後、第31回クレルモンフェラン国際短編映画祭で国際コンペティション部門最優秀コメディ賞を受賞した『Succes』(08)などの短編やテレビ映画で監督業に進出したという経歴の持ち主。本作が長編デビュー作となる。
「まだ一般的にはあまり知られていない監督だが、俳優の中では有名です。次回作でヒッチコックの『鳥』(63)をリメイクするみたいだから、私も鳥の役でキャスティングされるかもね(笑)」(*文尾に訂正あり)とユーモアあふれるコメントで会場を沸かせたポーギーさん。音楽の使い方やセリフ、画作りなど隅々にまでポップなセンスを散りばめつつ、現代社会とそこに生きる人間の歪みを鋭く見つめる本作だが、最後には救いもある。
「この映画は、宗教や同性愛といった、現代人の抱えるさまざまなストレスが象徴的に描かれています。一見すると“過激”といえるシーンも出てきますね。しかしその描かれ方は哲学的で深さがある。ラストの歌のシーンは、フレッドのこわばった表情が少しずつほどけて笑顔に変わっていく、この映画を象徴するような心を動かすシーンになっています」。
*ヒッチコックの『鳥』のリメイクを手がけているのは、ファーストネームは同じディーデリクだが、本作の監督とは別人となるDiederik van Rooijen監督だと、授賞式の壇上でポーギー・フランセン氏が訂正。Q&Aでのトークは残しつつ、ここに訂正させていただきます。