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【デイリーニュース】vol.19 『帰郷』 ミロシュ・プシッチ監督 Q&A
「多くの人々が、よりよい生活を求めて国を出て行ってしまう」
ミロシュ・プシッチ監督
5日目となる23日(水)は、長編コンペティション部門より、3本の外国映画が登場。1本目にはセルビアを舞台にした映画『帰郷』のアジアンプレミアとなる上映が行われた。終映後のティーチインに駆けつけたミロシュ・プシッチ監督は、「音も映像もベストなクオリティで上映してくれた」と、映画祭の環境を絶賛した。
物語は大都市のベオグラードで暮らしていた青年ヤンコが、久しぶりに故郷に帰ってくるところから始まる。母親のミリツァは息子と共に住む準備をしていたが、過疎が進むその村には若者がほとんどいなくなっている。親の代から受け継ぎ自らが生まれ育った故郷の土地に対して、若い世代は何ができるのか、また何をすべきなのか……。
セルビアでは有名な演劇がベースになっているという本作は、セルビアだけでなく東ヨーロッパの国々が抱えている深刻な問題を扱っている。プシッチ監督いわく「多くの人々が、よりよい生活を求めて、国を出て行ってしまうのです」。
36日間の撮影スケジュールの中でも、子牛が生まれるシーンは、少々複雑なものになったという。出産を控えた母牛を見つけたものの、いつ生まれるかのタイミングは誰にもわからない。スタッフは牛小屋の中に最低限の照明と機材のみをセッティングして少し離れた場所で待ち続け、深夜になってようやくカメラに収めることができた。「演劇では舞台上で出産シーンを上演することはできません。でも実写映画ではそれが可能だと気がついて、撮ることにしました。というのも、あそこだけが唯一、生命がこの先も続いていくことを表現するシーンになっているからです」。
また、観客からは「髪を切るシーンが素晴らしい!」との感想が出た。母親役の女優はこのシーンのためにリアルなウィッグを用いて撮影に臨んだそう。「でもそのウィッグはとても高価だったので、プロデューサーから一つしか用意できないと言われました。彼女はとても素晴らしい女優ですが、本番ではひたすら幸運を祈って、無事にワンテイクで成功することができました」。
この映画を撮るにあたって特に影響を受けた監督として、プシッチ監督が挙げた名前は、クシシュトフ・キェシロフスキやニキータ・ミハルコフ、セルビア人の父を持つエミール・クストリッツァなど。いずれもロシア・東欧の名匠で、最近流行りのお洒落な映画よりも、人類の根本的な人間性を描くクラシックな映画が好きだと語った。
原題の「Withering」とは「枯れ果てる」の意。今回の来日で「枯渇」という日本語を知って気に入ったプシッチ監督は、漢字で書くことに挑戦しているという。日本ではまだまだ観る機会の少ないセルビア映画の今を知ることのできる一本だ。
『帰郷』は、7月26日(土)にも10:30から映像ホールで上映され、プシッチ監督のQ&Aも予定されている。