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【デイリーニュース】vol.26 『ロック・ペーパー・シザーズ』音楽ラマチャンドラ・ボーカー Q&A
「3人のキャラクターに合わせて、異なる楽器を使った異なる曲をつけました」
音楽担当のラマチャンドラ・ボーカーさん
映画祭8日目、長編コンペティション上映の最後を飾ったのは、『ロック・ペーパー・シザーズ』。カナダのフランス語圏、ケベック州で製作されたスリリングなフィルム・ノワールだ。
先住民の若者ブカンは、新しい生活を求めて南へ向かう途中、怪しげな男にワゴン車の運転を頼まれる。認知症の妻を抱えながらクズ拾いで細々と生計を立てているイタリア系の老人ロレンツォは、中国人マフィアに大金を稼げるという仕事を持ちかけられる。裏稼業の人間たちを治療する闇医者ヴァンサンは、足を洗おうとするが許してもらえない。何の関係もなかった3人の男たちのドラマが、やがて複雑に絡み始め、物語は意外な方向へと向かう……。
スタイリッシュな映像もさることながら、印象的なのは音楽。渋いアコースティック・ギターの曲からマカロニ・ウエスタン風、中国風、クラシックまで、様々な曲が使われている。上映後のQ&Aに登壇したのは、その音楽を手がけたラマチャンドラ・ボーカーさん。インド人の父とデンマーク人の母を持ち、モントリオール育ちのボーカーさんは、クラシックを学び、カルト・ハードコアバンドでドラムスを叩いていたこともあるという、多彩なバックグラウンドの持ち主だ。
「モントリオールは、映画にも描かれているように多様な人種の集まった街です。本作では、3人の異なる物語が別々に進行していくので、それぞれのキャラクターに合った音楽をつけました。エレクトリック・サーフギターやアコースティック・ギター、中国人のキャラクターには中国の琵琶や打楽器など、キャラクターごとに違う楽器を使っています。3つの物語を結び付ける役割を果たすのは中国系マフィアなので、中国風の音楽でそれぞれの曲をつないでいるんです」。
映画のノワールな雰囲気を特に盛り上げているのは、マカロニ・ウエスタンを思わせる曲の数々だ。
「実際、この『ロック・ペーパー・シザーズ』を作る際、監督の頭の中にあったのは『グッド・バッド・アンド・アグリー』(マカロニ・ウエスタンの傑作『続・夕日のガンマン』の英題)だったんです。この3人のキャラクターはみな、スパゲティ・ウエスタン(英語ではこう呼ばれる)に出てくるような一匹狼。だから音楽もそういう雰囲気にしようと言われたんですが、私は音楽には変化を持たせた方がいいと主張しました。全編スパゲティ・ウエスタン風の曲だとパロディに見えてしまって、シリアスに見てもらえなくなりますから。また、カーラジオやカフェ、レストラン、バーなどでかかっている曲は、みなケベックのグループのものを使っています。リアルなケベックを出したかったので」。
映画の中には、4人の人間にドラッグを飲ませ続け、誰が最後まで意識を保っていられるかを賭けるショッキングな賭博が登場するが、ストーリーはどのくらいリアルな出来事に基づいているのだろうか。
「あの賭博は、私の知る限りリアルなものではありません(笑)。極端な形のギャンブルが物語に必要だったので、監督が創作したものです。また、中国系のマフィアが出てきますが、カナダで中国系やアジア系の人々にそういうイメージがあるわけでもありません」。
ボーカーさんの話からは、ケベックに対する愛着、そして映画と音楽に対するリスペクトが強く感じられた。