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【デイリーニュース】vol.10 『アニメーション①』 Q&A
今年新設のアニメーションコンペティション部門に若い才能が集結
『夕化粧』『なまずは海に還る』『通勤ラッシャーズ』『Airy me』『端ノ向フ』『Slap Stick』『鬼の角』
左から『鬼の角』森田律子監督、『端ノ向フ』塚原重義監督、『通勤ラッシャーズ』野中晶史監督、『なまずは海に還る』岩瀬夏緒里監督、『夕化粧』胡ゆぇんゆぇん監督
11年目を迎えたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭では、より多岐にわたる若手映像クリエイターの発掘と支援を目的に、今回『アニメーションコンペティション部門』が新設された。5分以上の国内作品を対象にした記念すべき第1回コンペティションには、14作品がノミネートされ、7本ずつ2回に分けて上映される。映画祭3日目の21日(月・祝)、1回目の上映が行われ、最初のプログラム『アニメーション①』では、上映後、出席できなかった『Airy me』の久野遥子監督、『Slap Stick』の小原孝介監督を除く5人の監督が登壇し、それぞれの作品についての思いを語った。
『夕化粧』は、60年代の中国を舞台に、庭で涼んでいる老母が赤い夕化粧の花を見つめながら過去を回想する、美しい作品。胡ゆぇんゆぇん監督は、「帰省した時に母の小さい頃の話を聞き、それが自分の中でふくらんだんです」と話す。「最初は切り絵に近いものを考えていましたが、水彩用紙をスキャンしてフォトショップの中でブラシを使ったり、かなり模索して、水彩の紙を削っていく方式にたどりつきました。自分が満足する画面なるまでに結構苦労しています」。
『なまずは海に還る』は、川岸に取り残された船の中で暮らす、老いたなまずと小さななまず、そして彼らを世話する少年のふれあいを描く。岩瀬夏緒里監督は、「90歳近い祖父が、ずっと大切にしていたカメラを“もう使わないから”と私にくれたんです。近々逝ってしまうのかも、カメラは欲しいけど欲しくないという、その時の感情がもとになっています。祖父は今も元気で、新しいカメラを買ったそうですが(笑)。線は鉛筆で紙に描いていますが、そのあとの処理はデジタルです。日本の田舎というモチーフに合うように、水彩用紙や和紙などをたくさん重ねて、何だかわからない感じにしています」。
『通勤ラッシャーズ』は、満員電車で誰もが経験する出来事を、ユーモラスにシニカルに、そしてペーソスたっぷりに描く。野中晶史監督は、「自分が1時間くらいかけて電車通勤していた経験がもとになっています。毎日すごく嫌で、あのつらい気持ちを何年も抑えているおじさんたちは凄いなと。おじさんたちのスペシャリスト感をコミカルに描こうと思いました。今回は紙は使わず、すべてデジタルで作画し、色を塗って編集しています。満員電車の暑い空気を出すため、もやもやした質感を加えてみました」。
『端ノ向フ』は、戦闘が行われている下町に取材に来た新人記者が、路地の奥で経験した不思議な邂逅を、ところどころ無声映画の弁士が語るシーンもまじえながら描く独創的な作品。塚原重義監督は、「小さい頃、悪いことをして親に“山に捨てる”と脅かされた記憶をモデルにしいます。その後、子どもを脅かすのにはいろいろなバリエーションがあることを知り、そういうものを民俗学的に捉えた作品を構想しました。和紙や水彩用紙に描いたテクスチャーを何枚も重ね、下町の路地裏のカビ臭い、よどんだ空気感を出しています」。
『鬼の角』は、人里離れた家に住む漢方医が、ある日子鬼の怪我を手当てしてやったことから、次々と治療を求める妖怪たちの訪問を受けるが……という、ちょっと切ないストーリー。森田律子監督は「自分の好きなものは何かと考えた時、不思議なもの、妖怪だと思ったんです」と制作のきっかけを語る。「妖怪が出てくる物語なので、和風にしたくて、一枚一枚筆で手描きして制作しました。使う和紙にもこだわりって、昔っぽく見えるよう、いろいろな紙で挑戦してみました」。
開催1回目にして、すでに若い才能の宝庫といった感のあるアニメーションコンペティション部門。『アニメーション①』は、25日(金)にも14:00から映像ホールで上映されるので、お見逃しなく。