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【デイリーニュース】 vol.07 『アンダー・ヘヴン』 ダルミラ・チレプベルゲノワ監督 Q&A
「彼は憎しみや嫉妬を経験して、自分の罪に向き合って、人として成長した」
『アンダー・ヘヴン』のダルミラ・チレプベルゲノワ監督
岩と山に囲まれた荒涼としたキルギスの山村に暮らす兄弟。都会で夢破れた経験をもつ兄ケリムは、田舎でくすぶり続けることに不満を募らせ、対照的にまじめな弟アマンは、孝行息子として周囲から愛されている。兄弟がひとりの少女を同時に恋してしまったとき、悲劇が幕をあける……。
旧約聖書に登場する人類最初の殺人である「カインとアベル」をモチーフに、ある兄弟の愛憎と贖罪を神話的なスケールにまで高めて描いた『アンダー・ヘヴン』。詩人、ジャーナリストとしても活躍し、本作で映画監督デビューを飾ったダルミラ・チレプベルゲノワ監督によるQ&Aが17日(日)、多目的ホールにて行われた。
熱量のある作品に、観客からの質問もまた核心をついたものばかり。「ヒロインのサルタナットと祖母が会話をするときは、鏡を置いて、そこに映った互いの姿を撮影する手法を使っているのは何故ですか?」という最初の問いには、「ふたりの関係性を表しました」と明確な答えが。
ある緊迫した場面で、兄弟の母親が紅茶をカップに注ぐ時間が、奇妙なほど長いことに関する質問には、「心理的な時間の長さを伝えたかったから」という答えが返ってきた。「あの場面のケリムは、これから母親に、アマンに関することでショックを与える事実を打ち明けなければいけない状況に立たされています。母を苦しめたくない。だけど、言わなければならない。そんな彼の焦燥感を、お茶を注ぐ時間の長さで表現してみました。それにしても長いですよね。種明かしをすると、カップを置いたテーブルの、カップの底が当たっている部分をくり抜いて、その下にバケツを置いて撮影したんです(笑)」
随所に意味の込められた映像や演出が見られ、とりわけ夢に関する場面は印象的だ。「劇中、夢が2回、出てきますね。どちらもケリムの見る夢です。1度目は、バスの乗客たちから『お前に罪はない』と、口々に話しかけられる夢。2度目は、すべてが終わってしまった後で見る夢です。前者では、自分の行為を許されることを願っているケリムの心を、後者では、もしかしたらこうなっていたかもしれない未来を示しました」
この映画は「カインとアベル」から材をとってはいるが、ケリムとアマンのどちらが善人で、どちらが悪人かを描いているわけではないという。「兄弟だからこそ強く意識してしまう嫉妬や対抗意識、愛情ゆえの憎しみを描きたかったのです。アマンが結局どうなったのか、劇中では明らかにしていません。ですがケリムは、すべては自分の責任だと信じています。何故なら彼はアマンの死を願ってしまったからです。実際に行動しなくとも、心の中で思ってしまっている時点で罪なのだと」
一方で「キルギスの言葉で、アマンとは“生きている”を意味します」とも語る。だから、解釈は観客に委ねたいのだという。「ラストシーンで、ケリムは“バルバル”と呼ばれる石人を彫っています。キルギスでバルバルとは、闘いで勝った者が、打ち負かした相手への敬意を表して掘るものなのです。彼は憎しみや嫉妬を経験して、自分の罪に向き合って、人として成長した……そうであってほしい。そう思ってこの物語を作りました」
鋭い質問の数々に、的確に、誠実に答えてくれた監督は、こんな言葉で場を締めくくった。
「この映画のことを完ぺきに理解してくださって、本当にありがとうございます。とても嬉しいです」
『アンダー・ヘヴン』は次回、7月20日(水)10時30分から映像ホールで上映され、ダルミラ・チレプベルゲノワ監督によるQ&Aも行われる。