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【デイリーニュース】 vol.10 『タンナ』 キャロライン・ジョンソン プロデューサー Q&A
昔ながらの風習を守りながら健康で幸せに暮らすことを選んだバヌアツの島の物語
『タンナ』 のキャロライン・ジョンソン プロデューサー
長編コンペティション部門出品作『タンナ』は、バヌアツ共和国で初めて全編が撮影された貴重な作品。バヌアツ南部のタンナ島の大自然をバックに描かれる実話をもとにした悲恋ドラマだが、憎悪や暴力がはびこる現代社会全体に通じるテーマも含んでいる。
成人式を迎えたばかりのヤケル族の娘ワワ(マリエ・ワワ)は、族長の孫ダイン(ムンガウ・ダイン)と家庭を持つことを夢見ている。しかし結婚は親や族長が決める慣習で、ワワは敵対しているイメジン族と和平を結ぶため嫁に出されることになってしまう。部族同士の争いを終結させるためとはいえ納得できない2人は、村を飛び出し、2人で暮らせる地を探すのだが……。
18日(月・祝)に映像ホールで上映され、次いで本作のプロデューサーであるキャロライン・ジョンソンさんによるQ&Aが行われた。彼女が着けていたビーズは、ヤケル族の女性から贈られたものなのだとか。「この映画が上映される際は必ず身につけて、村の人々と一緒にいる気持ちで臨んでいます」
本作の出演者は全員俳優ではなく、実際にタンナ島で昔ながらの慣習を守って生活しているヤケル族の人々。一体どうやって村の物語を映画にし、村の人々に演じてもらったのだろうか?
「監督のベントレー・ディーンとマーティン・バトラーは、もともとドキュメンタリー作家。ベントレーは、私たちのような生活がすべてではないことを息子に見せるためにタンナに滞在していました。そこで実話に基づいたフィクションのアイデアをふくらませていったのです。私もパキスタンのコミュニティでドキュドラマを作った経験があり、2人から映画の話を聞いた時はすぐに『やるわ!』と言いました。まず映画を見たことがなかった村の人々にアボリジニを題材にした作品を見てもらい、こういうものを作りたいと説明すると、彼らは『明日からやろう』とノリノリで(笑)。80年代に村で実際に起こった恋人たちの心中事件と、もっと前の時代にあった部族間抗争の話を組み合わせることにし、村の人々にも賛成してもらいました」
キャスティングについては、「族長は実際の村の族長が、シャーマンは実際のシャーマンが演じています。ダイン役を演じたのは、村で一番ハンサムな青年(笑)。ワワ役だけは難航しました。というのも、村にいる若い女性たちはダインの従姉妹ばかりで、ダインの恋人という設定にはできなかったのです。ワワ役だけ他の村でオーディションを行い、美しく、ダインを見つめる視線が強烈な彼女に決定しました」
撮影中、スタッフは村の家に滞在し、ディーン監督とその家族は7カ月も島に滞在していたのだとか。
「3歳と5歳の息子さんたちは、村の子どもたちと同じような恰好で走り回っていたんですよ。私は空気で膨らむキャンピング・マットレスを持って行きましたけど(笑)。電気はソーラーパネルを持って行ってカメラのバッテリーやパソコン、電話などを充電し、終わったあとは通訳の人に寄付してきました」
本作は昨年のヴェネチア国際映画祭国際批評家週間で上映され、撮影賞と観客賞を受賞。ヤケル族の人々とワワも映画祭会場のレッドカーペットを歩いた。
「メラネシアの歴史は3000年に及び、西洋文化が入ったのは200年程前です。西洋の習慣や暮らしを受け入れた部族もありますが、受け入れを拒否し、昔ながらの風習を守りながら健康で幸せに暮らしている部族もあります。タンナ島のホテルに滞在すれば、映画に出てくるヤスール山の噴火口までいくツアーがありますし、部族の村を訪ねて彼らの踊りや生活を見ることができるツアーもあり、彼らの現金収入になっています」
『タンナ』は次回、7月21日(木)17時30分から多目的ホールで上映され、キャロライン・ジョンソンさんによるQ&Aが行われる。