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【デイリーニュース】 vol.14 『アウト・オブ・マイ・ハンド』 福永壮志監督 Q&A
「“人間の本質”という普遍的なテーマを描く上で、心に境界線を引くことはない」
『アウト・オブ・マイ・ハンド』の福永壮志監督
西アフリカに位置するリベリア共和国。ゴム農場で働くシスコは、低賃金にうんざりし、また組合との間に軋轢が生じたこともあり、ニューヨークへ出稼ぎに行くことに。タクシー運転手をしながら母国に残してきた家族へ仕送りを続けるなか、かつての自分の過去を知る男と再会する……。
『アウト・オブ・マイ・ハンド』は、ニューヨークを拠点に活躍する日本人の福永壮志監督が手がけた長編デビュー作となる。本作は昨年のベルリン国際映画祭に出品されたほか、インディペンデント・スピリット賞では日本人監督として初めてジョン・カサヴェテス賞にノミネートされた。19日(火)、多目的ホールでの上映後にQ&Aが行われ、福永監督が登壇した。
北海道の伊達市出身で、高校卒業後に渡米して13年になるという福永監督は、自身もまた移民であると語る。
「僕自身がニューヨークに移民として住んでいるので、移民をテーマにした映画をいつか作りたいと、ずっと思っていました。実はこの作品は、リベリアでの撮影を担当した村上涼のプロジェクトだったのです。基になったのは短編のドキュメンタリーで、それを長編の劇映画という形にしたのが本作です。彼ありきで生まれた作品でした」
撮影はリベリアとニューヨークの2カ所にわたって敢行された。
「リベリアでの撮影は大変なことばかりでした。発電機をいつも持ち歩いて、また、雨季でもあったので、天候にも振り回されました。リベリアの俳優・スタッフ共にアメリカへ来るのも初めてだったので、ビザを取得するのも一苦労でしたね」
寡黙で陰影のある佇まいが印象的なシスコを演じたビショップ・ブレイは、200人から350人の応募者の中から主役を獲得した。
「リベリアで見られている映画やドラマはハリウッド映画やソープオペラ的な作品が多いので、そういう作品の影響を受けた演技をする俳優さんが多いんですね。ビショップは、微妙な演技のできる表現力の高さと、ルックで『彼だ!』と決めました。彼は現在、アメリカに移り住んで俳優として生きていこうとしています」
1980年代から2000年代にわたって、リベリアでは2回の内戦が起きた。その爪痕は現在も色濃く残り、シスコの過去をはじめ、物語の中でも様々な形で描かれている。教会の場面に登場する、異様な迫力を放っている説教師。演じるのは、実際に内戦当時、少年兵を指揮していた人物だという。
「内戦中に多くの残虐行為をした人物が、今現在も市民として普通に暮らしていたり、有力者になっていたり、ということが、リベリアでは普通にあります。あの説教師を演じた男性が劇中で語っていることは、ほぼ彼自身の言葉です。この作品に出演している俳優のほとんどは、実際にその職業に従事している人や、父親がアメリカへ出稼ぎにいった家の子どもなど、映画で描いているのと同じ境遇の人たちです」
当初は、日本人である自分が、リベリア人を描いた映画を撮ってもいいのだろうか、その資格があるのだろうか……と悩んだ、と監督は語る。
「ですが、“人間の本質”という普遍的なテーマを描く上で、心に境界線を引くことはないのだと思うのです」
ちなみに、日本での配給会社が決まったばかりで、来年春に東京で公開されるとのことだ。
「本作のような商業性の薄い映画を撮っていくのは大変なことが多いですが、今後も人間についての物語を作っていきたいです」
リベリア パートでの撮影監督・村上涼は、現地でマラリアに感染し、33歳の若さで亡くなった。この映画は彼と、彼の家族に捧げられている。
『アウト・オブ・マイ・ハンド』は23日(土)、14時より映像ホールにて、2度目のQ&A付きの上映がおこなわれ、福永監督も再び登壇する。