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【デイリーニュース】 vol.16 『朝日が昇るまで』 アレハンドロ・グスマン・アルバレス監督 Q&A
巨体でカリスマ性があり良い演技のできる人、それがルカだった
『朝日が昇るまで』アレハンドロ・グスマン・アルバレス監督
移動するのも困難なほどの肥満体型であるフェデは、カメラの中に未現像のフィルムを見つけたことをきっかけに、カメラ店の青年パウロと親しくなる。妹の夫、つまり義理の弟であるラモンも含めた、どこか社会にうまく適応できない男たち3人は奇妙な友情を築いてゆく……。
メキシコからやってきた、ちょっぴりシュールでじんわり切ない人間ドラマ『朝日が昇るまで』の監督アレハンドロ・グスマン・アルバレスのQ&Aが19日(火)、多目的ホールでの上映終了後に行われた。
鑑賞した誰もが目を奪われるのは、主人公フェデに扮したルカ・オルテガの、並々ならない巨体だ。真っ先に挙がった質問は、「あの俳優は何者ですか?」というものだった。
「フェデ役に最適な人物を見つけるのは大変でした。このサイズの俳優はメキシコにはまずいないのでね」と軽く笑いを取ってから、監督は丁寧に質問に答えてくれた。
「さまざまな場所、例えば病院を巡ったりして、この役にふさわしい肥満体型の人を探しました。求めていた条件は3つあって、1つ、フェデと同じく実際に肥満のために身体的な問題を抱えていること。2つ、主演であるのでカリスマ性があり、かつ観客から愛される人物であること。3つ、良い演技のできる人。単に巨体ではダメなのです。そんなある日、撮影監督から『ぴったりの人がいる!』と電話がきたので、その人のFacebookを見つけました。以来、私は彼のストーカーになりました(笑)。それがルカだったのです」
脚本を読んだルカからは、出演するにあたって、ある条件を出されたという。
「この作品の音楽を担当したい、と要求されたのです。彼は本職がミュージシャンであり、メキシコで人気のバンド“San Pascualito Rey”のドラマーなのです。ですので、カメラの前で演技をするのも堂々としたもので、音楽も素敵なものを作ってくれました」
メキシコにおける肥満問題を込めたのか? という質問には、「特に意識はしていなかった」と答える。「本作に込めた第一のテーマは“友情”でした。それと、自分の世界に閉じこもっていた主人公が、カメラを手にしたことと、友情によってアーティストになっていく過程を描くことでした」
映画の肥満体型のキャラクターの多くが、笑い者にされたり、自分のことを恥じている、といった描かれ方をされていることを常々不満を抱いていた、とも語る。
「フェデは確かに太っていますが、そのことを恥とは思っていません。病院でフェデ役を探している時に出会った(肥満体型の)方たちからも、少し、警戒されたのです。太っている人物をバカにする内容の映画なのではないか……? と思ったのでしょう」
フェデの食事場面が強調されていない理由も、そこにあるという。
「巨体の人、イコール、しょっちゅう食べているという画作りは陳腐ですからね。むしろ、その体型故にデスクワークをするのが難しいので、自宅で内職仕事をしているといった部分に、彼らの内実を込めました」
フェデと友情を育むイケメン青年、パウロは何者? という質問も寄せられた。
「パウロ役のマウリシオ・イサクは、子役経験をもつYouTubeスターで、メキシコでは十代の女の子たちに大人気です。こんなに若くてカッコいい男の子が、フェデのような太ったオジサンと友だちになるなんて、不可解に思われるかもしれませんね。私も脚本を読んだとき、そう思いました。でも、その後、こんなふうに考えもしたのです。もしかしたら、パウロはフェデにしか見えていないのではないのか……と」
実際、パウロはフェデとラモンとしか会話をする場面はないし、パウロの読んでいるマンガ(『DEATH NOTE』ならぬ『DEATH LIST』!)の表紙に描かれているキャラクターはパウロに似ているし、映画の序盤でフェデが見ているテレビでは“少年が事故で死亡”というニュースを放送しているのだそう(※日本語字幕は出ないけれど)。
「そのほかにもパウロのTシャツのデザインや、彼が聴いている曲の歌詞などに仕掛けや遊びを施しています。こういった部分に気づいて、いろいろな解釈や読み解きをしてくださったら嬉しいですね」
キャスティングから作品の主題、裏設定(?)まで、言葉を尽くして質問に答えてくれて、映画と同じく優しい人柄を感じさせるQ&Aとなった。
『朝日が昇るまで』は次回、7月23日(土)10時30分より映像ホールにて、再びQ&A付きで上映される。