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【デイリーニュース】 vol.18『I PHONE YOU』タン・ダン監督、ワン・ユー プロデューサー Q&A
両国の文化の違いも味わった中国×ドイツ初の合作映画!
左から『I PHONE YOU』のプロデューサーのワン・ユー氏とタン・ダン監督
映画祭も後半に入った21日(木)、映像ホールで特別招待作品『I PHONE YOU』の上映が行われた。
重慶の街で、ピエロの格好をして花束をデリバリーする“フラワー・ピエロ”の仕事をしている若い女性リンは、ドイツからやって来た若い中国人実業家と恋に落ちた。iPhoneを贈って帰国した男との電話越しのやりとりに想いを募らせたリンは、彼を追ってベルリンに飛ぶ。言葉も地理もわからないリンを空港で迎えたのは、彼の運転手だというマルコという男だった。なかなか彼のところに連れて行かないマルコに、不安を感じるリンだったが……。
上映後のQ&Aには、タン・ダン監督とともに、プロデューサーのワン・ユー氏が登壇、客席からの質問に答えた。
今年のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭長編コンペティション部門の審査員でもあるワン・ユー氏は、特別招待作品『長江図』の製作も手がけている。中国インディペンデント映画の有力プロデューサーであり、海外との合作にも力を注ぐワン・ユー氏が、ドイツ在住の中国人女性監督と組み、中独合作として作り上げたのが、本作『I PHONE YOU』である。2011年の作品だ。
タイトルの『I PHONE YOU』は、スマートフォンの“iPhone”と、“私があなたに電話をかけます(けれど、あなたからはかけてこないでほしい)”という二つの意味をかけているという。
「この作品は初めての中国とドイツの合作映画です。なんと言っても初めてのことでしたので、製作には様々な困難が伴いました。5年前の作品ですが中国とドイツ両国で公開もしています」と、ワン・ユー氏がまず挨拶する。
続けて、タン・ダン監督が、「ドイツでは結構ヒットしたんですよ。どちらかというとドイツのお客さん向けに作った感じですね。というのも、この脚本を書いたヴォルフガング・コールハースさんという脚本家は、ドイツでは有名な脚本家。現在、85歳になる重鎮の方ですが、私の書いた脚本をいろいろと書き直して仕上げてくださいました。ワン・ユーさんに読んでいただいたら“うん、悪くないね”ということで作り上げた作品です」
ヴォルフガング・コールハースは、2010年にベルリン国際映画祭生涯貢献賞を受賞している。タン・ダン監督の映画学校の先生でもある。
タン・ダン監督によると、この脚本は7年間くらい放置されていたものだそう。それが日の目を見ることになったのには、この師弟関係が大きな意味を持っている。
「ある日授業が終わって、先生にアイスクリームをおごったんです。そうしたら先生が何かお返ししなくちゃねとおっしゃるので、それなら、私の書いた脚本を読んでください、とお願いしたんです。7年間も放っておいたし、350ページもあるので、まさか本当に読んでもらえるとは思いませんでした。でも一週間後、先生から連絡があって、“気に入ったよ。でも君は脚本の書き方を知らないね。僕が教えるから書き直してごらん”と言ってくださったんです。そこから一年かけてリライトし、100ページの脚本にしたんですが、製作しようという会社は見つかりませんでした。もう諦めますと先生に電話したら、“じゃあ僕が書き直してみようか”と言って、8ページのシノプシスを書いてくださった。その途端、何社も興味を持つ会社が現れたんです」
ドイツではヒットしたそうだが中国ではどうだったのだろう。
「5年前の公開当時、まだちょっと中国の観客にはこういうアートハウス系のインディペンデント映画は合わなかったようです。当時は合作といえば両国のスターが出てロケやアクションもいっぱいある大作でなくちゃ、とお客さんは考えていましたから。また、中国のお客さんの反応にもびっくりしました。ドイツでは男女の関係について描いた映画として素直に受け入れられたのに、中国では特に主婦層の猛反発を受けてしまったんです。“なぜ愛人の側から描くのか。私たちから夫を奪い、家族を壊すような女を主人公にするのか”って(笑)。男と女にはいろいろな愛の形があるし、その見方もいろいろあるというふうに描きたかったと言ったんですが、ドイツではアートとして見られても、中国ではリアルな実状ととらえられてしまったみたいです(笑)」
舞台は重慶。内陸部の大都市で、中国第五の都市だ。リンはこの街で、キャビンアテンダントになることを夢見ながら、花のデリバリーをしている。
「舞台を重慶にしたのは、そこが私の故郷だからです。いつか故郷を舞台にした作品を作りたいと思っていたんです」とのこと。「ヒロインをフラワー・デリバリーの人にしたのは、ある記事がきっかけでした。浮気をした夫が妻に謝罪のために花束を贈ったという話。主人公のリン(ジャン・イーエン)は若くてお金がなくて、人生経験も恋愛経験もあまりない女の子です。まだアイデンティティの確立されていないリンは、その人となりをほとんど知らない人に恋してしまう。そんな彼女が人の代弁をして愛を伝えるという仕事をするのは、キャラクターとして面白いと思ったんですね」
リン役のジャン・イーエンを発掘したのはプロデューサーのワン・ユー氏。
「私は19年ドイツに住んでいるので、中国の人脈がありません。ワンさん頼みでしたので、感謝しなくちゃ(笑)。キャストは直感で決めますが、最初にこの子が好きという感覚が持てるかどうかが大事です。ジャン・イーエンと初めて会ったのは冬の北京でした。彼女はもうすでに中国ではかなり有名な女優でしたので、すごい高級車に乗ってきたんです。こちらが考えていた役の年齢より少し上でしたが、目が純粋な感じを出していたんですね。コールハース先生とワンさんにも会っていただいて、この子ならいいだろうということになりました」
演出上、タン・ダン監督には、ひとつだけ気をつけていたことがあった。
「決めていたのは、ヒロインを泣かせない、ということでした。ヒロインが泣くとお客さんが引いてしまう気がしてとにかく泣くな、と言いました。彼女はドイツ語はもちろん英語もあまり上手ではなかったのですが、そのつたないところがかえって良かったとも思います。あと、メイクですね。ノーメイクでとお願いしました。あなたはとても美しいし、そのままで眺めていても飽きないから大丈夫。メイクなしでやってちょうだいと説得しました。中国では女優のメイクは濃いのが当たり前ですから、抵抗はあったみたいですね(笑)」
たくさんの裏話が飛び出し、収穫の多い『I PHONE YOU』のQ&A。登壇した二人にも、苦労して作った作品を、何年も経て、また別な場所で観てもらえることへの喜びが感じられるトークショーでもあった。