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【デイリーニュース】 vol.22 特別招待作品『長江図』ワン・ユー プロデューサーQ&A/『I PHONE YOU』タン・ダン監督とのトークセッション
ベルリン国際映画祭銀熊賞の『長江図』はジャ・ジャンクーの『長江哀歌』の続編的作品だった!
左から『長江図』ワン・ユー プロデューサーと『I PHONE YOU』タン・ダン監督
長江をわたる貨物船の船長ガオ・チュンは、ある日、船内で「長江図」と書かれた詩集を見つける。上海から南京、三峡ダムを通って上流へと向かう旅路の中、詩集に書かれている詩の世界へと誘われるかのように、彼は様々な体験をする。各港に停泊するごとに出会う不思議な女性との恋。船員との軋轢。自分自身の過去。旅の果てに、ガオ・チュンがたどり着くのは……。
『長江図』は、本年度の第66回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞し、本映画祭がジャパン・プレミアとなる。プロデューサーのワン・ユー氏は、本作と同じく特別招待作品である『I PHONE YOU』の製作者でもある。『I PHONE YOU』のタン・ダン監督と共に登壇し、躍進著しい中国映画界について語ってくれた。
「2011年以降、中国映画市場は興行収入の面でも観客動員の面でも、拡大の一途を遂げています。ちなみに2015年におけるスクリーン数は、約3万2千。観客動員数は12.5億人という数字です。現在、6つの大会社が映画市場のかなりの割合を独占していて、うち1つのワンダ・グループという会社は、アメリカの映画会社レジェンダリー・ピクチャーズ(『ダークナイト』やハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』を製作)を買収しました。このことからも分かるように、中国資本はアメリカ映画界にもどんどん食い込んでいくでしょう」
活性化する一方で、残念ながら質が伴っていない、と苦言も呈する。
「2015年に中国では686本の映画が製作されました。その中で一般公開されたのは、200本。1/3以下なのです。また、製作費のもとをとれるのは、その内わずか一割程度です。たしかに今現在、中国映画界は勢いがあるにはあるのですが、映画文化の向上には必ずしもつながってはいない実感があります。私自身は、こうした動向はどこか他人事のように感じられるのです」
ワン・ユー氏は『長江図』はヒットするかどうか、ということは度外視して、「中国内の観客だけでなく、あらゆる観客、あらゆる文化をもつ人々に訴える物語になると思った。だから作ったのです」と語る。
ベルリン国際映画祭で、ヤン・チャオ監督とこの映画について語り合ったというタン・ダン監督は、「もしかしたら、劇中に出てくる女性は幻影なのかもしれないと、ヤン・チャオ監督は言っていました」と、コメント。
「つらく、長い旅なので、孤独に耐えかねた主人公の心が見せた、美しい幻なのかもしれない……と。でも、すべては観客の想像力と解釈に委ねたい、とも語っていました」
舞台となった長江について、ワン・ユー氏には並々ならない思いがあったという。
「今から10年前、ジャ・ジャンクー監督と長江に関する映画『長江哀歌』を作りました。その映画を作った後、長江には三峡ダムが建設され、長江がどのように変わったのかを再び描きたい、とずっと思っていました。その意味では、本作は『長江哀歌』とつながっているのです」
中国映画界の若き巨匠ジャ・ジャンクーがかつて描いた長江と、新鋭ヤン・チャオ監督が本作で描いた長江。10年の時を経て、川も、風景も、人々の意識も変わったのだろうか。
客席からは、「楽山大仏をはじめとする、仏教に関する様々なシンボルが印象的だった」という声が挙がった。世界で最も高い石刻大仏として知られる楽山大仏は、水害に苦しむ人民を慰撫するために玄宗皇帝が作らせたものだという。
「大仏や寺院など、仏教の精神性を象徴する数々のものが映画には登場しますが、仏教はこの物語のテーマと合っていると思いました。現在は、かつてないほど混乱の時代です。毎日のようにどこかの国、どこかの都市でテロが起こり、それが普通になってしまっています。こんな世界において、精神の源流をどこに求めたらいいのか? そうした問いと、それについての答えを私たちは模索し、映画の中に織り込んでいきました」
最後に、ワン・ユー氏について、タン・ダン監督は語る。
「この映画をご覧になった皆さんならお分かりかと思いますが、ワンさんは、あまり興行的にはヒットを見込めないであろう、アート系志向の映画を作っている若手監督たちの才能を見出し、発掘してくれる方です。ジャ・ジャンクー監督然り、本作のヤン・チャオ監督然り。ありがたいことに私の監督作品『『I PHONE YOU』もプロデュースしてくださいました。私はドイツに長年住んでいるので、中国映画界との人脈はないに等しいだけに、こうして手を差し伸べ、励まし、チャンスを与えてくれる方がいるということは、本当に心強いです」
中国映画界の現状と実情、そして現場の世界に身を置いている映画人だからこそ出てくる生身の言葉の数々が印象的なQ&Aだった。