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【デイリーニュース】 vol.14 『ひかりのたび』 澤田サンダー監督、志田彩良、高川裕也、木滝和幸プロデューサー Q&A
地域の支援で作りあげる世界を視野に入れた新しい戦いと父娘の物語
左から木滝和幸プロデューサー、高川裕也(出演)、志田彩良(出演)、澤田サンダー監督
映画祭3日目、長編部門国際コンペティション作品3本目の上映は、モノクロームの静謐な映像が美しい日本映画『ひかりのたび』。上映後には澤田サンダー監督、すれ違う父娘を演じた主演の志田彩良さんと高川裕也さん、木滝和幸プロデューサーが登壇した。
まずはモノクロームという手法を選んだ理由について。「原色など、自分にとってこの映画に必要のない色がいくつかあったんです。それが入らないようにするために、究極的な方法だったのがモノクロ。また、モノクロにすることで、やや惨い内容をソフトに見せる効果も狙った」と澤田監督が説明。「あと、外国人が土地を買い漁るという現象は、日本ではちょっと前に起きたことではあるのですが、ほかのアジア圏の国など、海外では今後起きる可能性もある。もしくは、日本と立場が逆転する可能性もある。モノクロにすることで、時代環境をなるべく残さないようにしたいと思いました」
『ひかりのたび』の脚本は、澤田監督が、親交のあるミュージシャン・三富栄治さんのアルバム「ひかりのたび」に収録されているギター曲「思い出」を聴いたときに、パッと物語の全体像が閃いたことから生まれたという。
ある地方の町で、不動産業者を営む植田。買い上げた土地を次々と外国人に売り渡しており、地元の名士らからは疎まれている。植田の娘で高校3年生の奈々は、子どもの頃から父親の仕事のせいで転校続き。そんな境遇への不満が募り、親は心を通わせることができない。奈々は今の町で高校を卒業し、そのまま暮らし続けたいと願っているが……。
タイトルと内容に、直接的な関係はない。澤田監督は、「平仮名の並びが、僕の目指してる、内容は厳しいんだけどソフトな映像の感じに似ているので、タイトルを残しました」と明かした。
父と娘の関係を主軸にしながら、外国人に土地を売るという商売を取り上げた理由は何だったのか?
「株や、通貨の上げ下げ、他の国の土地を買うっていうのを、新しい戦争みたいなものだと思っている」と澤田監督。「それに遭遇したり、その状況の中から何かを見出すというのはどういうことなのかを説いてみたいと思いました」とその意図を語った。
『ひかりのたび』は、2015年に群馬県の伊参(いさま)スタジオ映画祭シナリオ大賞で大賞を受賞した脚本を映画化したもの。観客からは、映画祭の支援で作る映画の可能性について、また、地元のバックアップが重荷ではないかという趣旨の質問があがった。
木滝プロデューサーは、「オリジナルものはなかなか資金調達が難しいが、(本作は)伊参の支援のもと作ることができた。町ぐるみで迎え入れてくれるシステムができている」と述懐。伊参での撮影を経験した高川さんは、「伊参はある程度の歴史があって、低予算の撮影隊に対するケアや付き合い方が上手い。地元の方が映して欲しいというものと作り手側が撮りたいもののギャップも、そういう歴史があるからこそ徐々につめていけるのではと思う」と振り返った。また、伊参スタジオで撮られた『月とキャベツ』が好きだという志田さんは、「まったく同じ場所で撮影できたのが嬉しかった。写真を撮るのが好きなので、写真スポットもたくさんあって、すごく素敵な場所だと思いました」と笑顔をみせた。
「この脚本自体が、地方行政に対するクロスカウンターみたいな企画。それがグランプリとして通ってしまったことで、最初にいろんな支障が外れた」と言うのは澤田監督。地元への配慮によって創作が制限されるという懸念が最初からなかったことを明かした。
「海外での上映を視野に入れていることがわかる」と指摘する観客からは、「制作当初から海外配給を視野に入れていたのか?」という質問が。
木滝プロデューサーは、「国内では既にある程度数字が見えている。そうなると、私のようなインディペンデントの製作者は、出資者に利益を返すということを考えて、パイを増やすためにおのずと海外に目をむけるようになる」と日本映画界の現状を絡めつつ説明。さらに、「今回は、国際映画祭で上映するという目標が達成できて嬉しい。9月16日から新宿K'sシネマで公開されるので、ひとりでも多くの人に届けたい」と今後への意気込みを語った。
『ひかりのたび』は、7月20日(木)10時30分から映像ホールで2度目の上映が行われ、監督、キャストによるQ&Aも予定されている。