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【デイリーニュース】 vol.14 『ザ・ラスト・スーツ(仮題)』パブロ・ソラルス監督 Q&A
私たちはいま、破壊の時代ではなく、再構築の時代を生きている
『ザ・ラスト・スーツ(仮題)』のパブロ・ソラルス監督
国際コンペティション部門出品のスペイン・アルゼンチン合作『ザ・ラスト・スーツ(仮題)』は、かつてホロコーストを生き抜きアルゼンチンに渡ったユダヤ人の老人が、友人を訪ねて故国ポーランドへと旅する物語だ。
仕立屋のアブラムは、50年間住んだ家を子どもたちに譲り、不自由な足を引きずってポーランドへと旅立つ。目的は1945年に友人と交わした約束を果たすこと。入国許可がなかなか下りなかったり、ホテルで所持金を盗まれたりとトラブルが続くが、旅先で出会った人々に助けられてようやく故郷の町にたどり着き、生死もわからない友人を探すのだが……。
主人公と同じようにポーランドからアルゼンチンに渡った祖父を持つパブロ・ソラルス監督が、脚本も執筆している。
「最初の脚本を書いたのは2004年で、長い間の夢が実現した作品といっても過言ではありません。個人的には祖父へのオマージュでもあります」
ホロコーストの生存者という重い題材を扱いながら、ユーモアにあふれたロードムービーでもある。このようなスタイルを選んだことについて監督はこう語る。
「ロードムービーは多くの人に愛されているジャンル。ホロコーストを題材にしてはいますが、過去の時代を扱った映画でなく、現代に起きていることを描いています。ユーモアを交えて現代を描くことで、過去の恐ろしい出来事と対比させています。いま私たちは、破壊の時代ではなく、再構築の時代を生きているという意味合いを出したかったのです」
所持金を失ったアブラムを親身に世話するホテルのオーナー、ドイツを毛嫌いする彼を辛抱強く支えようとするドイツ人の人類学者、病院の仕事を超えて助力してくれる看護師。主人公を助ける3人の女性たちが印象的だ。
「脚本は即興で想像しながら書いていくので、なぜそういう設定にしたのかは自分でもわからないことが多いです。後から観客として観て、3人の女性たちに助けられるというストーリーに自分でも驚きました。個人的に抱いている女性に対するイメージが、3人に反映されているのかもしれません」
過去のトラウマに苦しむアブラムは、「ポーランド」という言葉を口にするのも嫌がり、「ここに行きたい」と説明する時にも紙に書いて示す。
「私が5歳の時、『おじいちゃんはポーランド人なの?』と聞いたら苦い顔をされ、父に『おじいちゃんの家でポーランドという言葉を出してはいけない』と言われました。祖父は現在96歳ですが、1969年にドイツに行かなければならなくなった時、アブラムと同じようにドイツの土は踏みたくないと言って踏まなかったのだそうです。祖父はこの作品を観た後、映画館から出てきて私を抱きしめてくれました。そしてこのドイツのシーンをほめてくれた。いまでは、ドイツで上映されることがあれば一緒に行くと言ってくれています」
アブラムを演じた俳優ミゲル・アンヘル・ソラについても、監督は熱く語る。
「ミゲル・アンヘル・ソラは、映画や舞台、テレビで活躍しているアルゼンチン最高の俳優の1人です。実際には役の設定より25歳くらい若いのですが、撮影のたびにメイクに2時間かけ、歩き方なども完璧にこなしてくれました。彼の演技のおかげでこの作品ができだのだと非常に感謝しています」
まだまだ話したいことがたくさんあり、Q&Aの時間が足りない! という表情のソラルス監督は、最後にこう締めくくった。
「地球の反対側からやって来て、作品を皆さんに観ていただけることを嬉しく思います。この映画は、文化の架け橋の役割も担っているのです。私たちがともに手をたずさえて、より良き未来のために働こうというメッセージが込められています」
『ザ・ラスト・スーツ(仮題)』の次回上映は、7月19日(木)17時から多目的ホール、7月21日(土)21時からMOVIX川口。19日の回には上映後にQ&Aも行われ、パブロ・ソラルス監督が再登壇する予定。また、12月からシネスイッチ銀座ほかで劇場公開されることも決定している(タイトルは変更になる可能性があります)。