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【デイリーニュース】vol.15 『世の中にたえて桜のなかりせば』三宅伸行監督、外山文治監督 トークショー

海外の映画人からも惜しまれた「日本映画の大スター」宝田明さんに捧ぐ

オンライン参加した『世の中にたえて桜のなかりせば』の三宅伸行監督と外山文治監督

 

今年3月14日に急逝した俳優、宝田明さん。エグゼクティブ・プロデューサーも務めたこの『世の中にたえて桜のなかりせば』が遺作となった。彩の国ビジュアルプラザの若手映像クリエイター支援事業にも賛同し、SKIPシティ発の作品にもたびたび出演するなど関係の深いスターだった。

 

そんな宝田さんを偲び、『世の中にたえて桜のなかりせば』の三宅伸行監督(オンライン参加)と、10年前に埼玉県が製作し、本映画祭で上映された宝田さん主演の『燦燦-さんさん-』を監督した外山文治監督によるトークショーが行われた。

 

不登校の女子高生・咲は、さまざまな境遇の人々の「終活」の手助けをする「終活屋」でアルバイトをしている。相棒は80歳を超えた老紳士・敬三。ある日、敬三は咲に、妻とかつて見た桜の下での思い出を語る。敬三たち夫婦を励まそうとその桜の木を探す咲。止まっていた咲の時間は再び動き出す。

 

まず外山監督に宝田さんの新作を見ての感想をうかがった。

 

「『変わってないなぁ、お2人とも』というのが正直な感想です。監督デビュー作だった『燦燦-さんさん-』は「婚活」をテーマにした作品だったのですが、当時共演の吉行和子さんが75歳で、宝田さんはその2つ上でいらしたから、本作では87(誕生日前だったので86歳で死去)歳。いやぁ、まったく変わらないなと。引退することなく、駆け抜けて亡くなったんですね。最後にこういう心に残る優しい物語で、優しい宝田さんらしい姿を見せていらして、よかったなと思いました」。

 

対する三宅監督は、「実は10年前、僕、短編をSKIPシティ国際Dシネマ映画祭に出していて、ここ(映像ホール)で『燦燦-さんさん-』を見ていたんですよ。『燦燦-さんさん-』は婚活、『世の中にたえて桜のなかりせば』は終活。よく似たテーマですよね」。

 

外山監督が続ける。「宝田さんの表現方法というか、たたずまいって心地いいんですよ。背も高くて、ダンディな二枚目で、リアクションとかちょっと他の人にない味がある。でもスクリーンに映すとナチュラルなんです。技術もあるのでしょうが、精神性もあるのかなと思います。気さくな方でこっちは33歳の初監督なのに無視することなく“こうしようか、ああしたらいいんじゃないか”って話し合って学ばせてくれる人でした」。

 

「今回はプロデューサーでもあるので企画から一緒に考えていったのですが、最初のところでは少し食い違いもありました。僕は宝田さんの自伝『送別歌』(ユニコ舎刊)を読んで宝田さんご自身の戦争体験を入れたいと思っていたんです。でもそこにヒロインとして現代の女子高生をからめていかないといけない。最終的にはエグゼクティブ・プロデューサーとして納得してもらいました。ただ完成披露の舞台挨拶で、これからはもっと社会性の強い作品を作りたいとおっしゃって。ひょうひょうとしているけれど、ものすごく努力もするし、大変な経験もしている方だったんですよね」と三宅監督。

 

外山監督が受けて「満州のこともよく語られていましたよね。語ってもらわないとわからないことだらけなんです。僕らですらそうなんだから、女子高生の目線でわかるようにというのは大変だったと思います。でも、なんといっても小津監督から伊丹監督までそうそうたる監督と組まれてきた方と仕事ができた。触れることができたっていうのは僕らにとっては宝物ですよね」。

 

再び三宅監督。「宝田さんって、サービス精神旺盛でしょう? なにかしら華を添えたくなるんですよ、芝居に。断るのは申し訳ないんだけれど時には率直に話してやめてもらうこともありました。エンターテイナーなんですよ」。

 

「そうそう、サービス精神(笑)。そんなところも“スター”だなって思いました。2人でパスタを食べに行ったことがあるんですが、お客さん一人一人に『何食べてるんですか?』って聞くのね、楽しませようとして。亡くなったことが発表された日の夜、吉行さんと会ったんですが、献杯って言って2人で話していても、しんみりするどころかニコニコしちゃうんですよ。楽しい思い出ばかりで。本当に温かい人だったなと思います。それで思い出したんですが、10年前この舞台であいさつした時、宝田さんと吉行さんについて聞かれ、2人ともまるでデビューしたての役者のように台本をよく読む、隅から隅まで何回も読むので驚いたって話をしました」。

 

宝田さんの訃報が流れた時、三宅監督は、海外の友人や映画を作っている人、映画ファンからたくさん連絡をもらったという。「あぁ、宝田さんは『ゴジラ』だけじゃなくて、本当に日本映画を支えたスターだったんだな。ワールドワイドに活躍した方だったんだなとあらためて思いましたね。そんな方の遺作を監督できて、光栄でした。これからも宝田さんの作品群の中の一本として見続けてもらえるとうれしいです」。

 

スター・宝田明の思い出は尽きない。その姿はスクリーンに残り、その教えは若い映画人の心に刻まれた。

 

三宅伸行監督の『世の中にたえて桜のなかりせば』は9月14日にDVDの発売が決定。『燦燦-さんさん-』はDVD発売中だ。

 


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