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【デイリーニュース】Vol.16『ジェイルバード』アンドレア・マニャーニ監督 Q&A

スタイリッシュに描かれた刑務所生まれの少年が世界を知る物語

ジェイルバード』アンドレア・マニャーニ監督

 

7月18日17時から映像ホールで上映された『ジェイルバード』。イタリアとウクライナの合作でタリン・ブラックナイト映画祭コンペティション部門にノミネートされ、本映画祭がアジアン・プレミアになる。

 

主演を務めるアドリアーノ・タルディオーロは、2018年のカンヌ映画祭で脚本賞を受賞し、日本でも公開された『幸福なラザロ』でラザロを演じた少年。いや、もう青年になっているが、本作が二本目の主演作である。上映後のQ&Aには監督・脚本のアンドレア・マニャーニが登壇。観客の質問に答えた。

 

「先ほどインタビューを受けていたのですが、大変深い質問をしてくださってとてもうれしかったです」と挨拶した監督はイタリア期待の新星。長編処女作である前作『Easy』はロカルノ国際映画祭に出品され、イタリアのアカデミー賞的な位置づけのダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で新人監督賞と主演男優賞にノミネートされた。

 

囚人である両親が収監されている刑務所で生まれたジャチント(ヒヤシンスのこと)は、洗礼式の日、父親が逃亡。ジャチントは、母が収監されている女性刑務所で、看守のジャックに見守られながら大きくなった。小学校に入る歳になったジャチントは、施設から学校に通う。そしてたびたび脱走しては刑務所に舞い戻り、また施設に戻されるという日々を経て18歳になった。18歳以上になると刑務所に入ることができると喜んだが、ことはそううまく運ばず、父親代わりになっているジャックがジャチントを刑務所に戻すための一計を案じる。

 

ジャチント役は前述したように『幸福なラザロ』のアドリアーノ、ジャックを演じるのは『シチリアーノ 裏切りの美学』などマルコ・ベロッキオ監督作の常連ジョヴァンニ・カルカーニョ。特徴のある顔が揃ったキャスティングについての質問に、監督はうれしそうに答える。

 

「良い質問ですね。ありがとうございます。まず、ジャチントの顔ですが、世の中の常識やルールを破ることを後ろめたさなしにできる無垢さが必要でした。もちろん顔だけでなくそういう演技ができる必要もあります。その点でアドリアーノは完璧でした。非常に純粋であると見た人が信じさせる信憑性と説得力のある顔です。演技力もあり、『幸福なラザロ』で彼がなぜ演技賞をもらえなかったのか不思議に思ったくらいです。そんな彼にどうアプローチしたかというと、実は、簡単でした(笑)。キャスティング・ディレクターにアドリアーノとコンタクトを取ってと言ったら、彼は今、経済学を学ぶ大学生でプロの俳優ではないから断られるだろうと言われました。『ラザロ』のときは高校生で、その後も俳優になったわけではなかったのですね。けれど連絡先はわかっていたので電話をしてみたら、あっさりとやってくれることになったのです(笑)。といっても彼は俳優になりたいわけではなく、彼の夢はワイン会社を起業することなんですけれどね」

 

この物語はフェアリーテイル、おとぎ話。だから俳優にもおとぎ話の登場人物のような顔や体型、存在感を求めたというマニャーニ監督。

 

「ジャックは背が高くて、見た目はいかめしい感じ。でも中身は優しくて主人公を守ってくれる存在です。またおとぎ話にはつきもののモンスター的存在には、ロッキーという終身刑の女囚を配置しました。彼女の体は大きくてずっしりしていて顔は険しく見るからに恐ろしい。でも本当は温かい心を持つ人で、主人公に指針を示してくれるのです。演じているニーナ・ナボカはオーディションで見つけたのですが、長い髪をこの役のためにベリーショートにしてくれました。この役にはそれが似合うといって」

 

ジャチントは刑務所で収監されている両親の元に生まれ、そのまま刑務所で育ち、ずっとここで暮らしたいと望む。実際、そんなことがあったのか? 何かインスパイアされたのか? という質問がでた。

 

「個人的な経験ではありませんが(笑)、イタリアでは刑務所で出産した場合、一年間は母親が育てられることになっています。それは多くの国、たぶん日本でも同じでしょう(註*日本では刑法上18カ月は刑務所内で母子ともに暮らせることになっている。実際には出産後乳児院に預けられることが多い)。母子にとって必要なことだからです」

 

「先ほどこの物語はおとぎ話だといいましたが、おとぎ話が現実の比喩であることが多いように、この物語の刑務所もそうです。人は自分自身で塀を作り、そこから出ることを拒むようになります。塀の外の世界は怖いし、出るには勇気がいるからです。塀を壊し外に出るには誰かの後押しが必要で、外の世界を知って初めて世界がもたらす素晴らしさを見つけることができるのです。私もこの映画を作るには勇気が必要でした。その勇気をくれたのはプロデューサーのキアラ・バルポです。彼女は私に映画を作らせ、今回は日本までついてきてくれました」

 

おとぎ話にはそれらしいルックが必要だ。それを「ウェス・アンダーソン風ですね」と指摘した観客に、監督は答える。

 

「もちろんウェス・アンダーソン監督は好きです。色彩や構図、光の使い方なども素晴らしいと思いますが、彼の映像の特徴のひとつがシンメトリーだと思うのです。ご指摘のように、この作品もシンメトリーは重要な映像的要素。特に世界を二つに分けるという意味で。囚人とそうでない人、中と外。カメラを中央において画面を二つに分ける。ストーリーも二つに分ける。そんなシンメトリーの概念を各所に応用しています。映像やストーリー上のことだけではなくて、音響についても刑務所の中の音と外の音を対比させたりしています」

 

最後に「ひとつ皆さんにお話ししておきたい」とマニャーニ監督は切り出した。

 

「この作品の撮影監督のことです。ヤロスラフ・プリンスキーは、構図や色彩、そして光について、私がどうしたいのかを聞き出し、助け舟を出してくれました。彼とは初めての仕事でしたが、とても物静かで、気が合いました。彼はウクライナ人で、今、前線で戦っています。あんなに穏やかな人が戦場で戦わなくてはいけない理不尽さに、私はフラストレーションを感じています。この美しい映像を撮った撮影監督のことを、皆さんに知って欲しいと思います」

 

プリンスキー氏に、一日も早く、銃ではなくカメラを担ぐ日が戻るよう、祈りたい。

 

ジェイルバード』の次回上映は、7月22日(土)14時20分から多目的ホールで行われ、アンドレア・マニャーニ監督によるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月22日(土)10時から7月26日(水)23時まで。


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