デイリーニュース
『クロッシング』セリム・デミルデレン監督Q&A
「モノクロに近いカラーの映像は、主人公の孤独を表現しています」
セリム・デミルデレン監督
会計事務所に務めるギュヴェンは、真面目一本槍のサラリーマン。妻と、毎日決まった時間に会社に電話をかけてくる5歳の娘との家庭を大切にし、あまり人づきあいはしたがらないが、社長からの信頼は厚かった。しかしある日、同僚のアルズはふとしたきっかけから、彼の家族が本当に存在するのか疑いを抱き始める。トルコ映画『クロッシング』は、同じ会社に勤めるごく普通の人々の、それぞれの事情や過去、人間関係を丁寧に描いたドラマ。
イスタンブールを舞台にしているとはいえ、有名な名所旧跡などは一切登場しない。映像も、くすんだような不思議な色合いだ。セリム・デミルデレン監督は、
「撮影はイスタンブールで行いましたが、観光客が訪れるような場所はあえて避けました。モノクロに近いカラーの映像は、主人公の孤独を表現しています」と説明する。
謎の多い主人公の人物像は、どう作り上げていったのだろう。
「トルコ移民の多いドイツのカフェで会った男性は、トルコの大学を出て一旗あげようとドイツに移住したのですが、結局窓拭きの仕事をしているそうです。年に一度一カ月間トルコに帰省する際、周りに本当のことが言えず、ドイツで成功しているふりを何年も通している、という彼の話にインスパイアされたのです。主人公を演じる俳優は最初から決めていて、脚本もあて書きしています。ラストが楽観的すぎるという批判も出ましたが、私はスタッフとも充分に話し合い、最適なエンディングになったと思っています」。
デミルデレン監督はまた、ラストの1曲を除く劇中すべての音楽を作曲・演奏している。
『クロッシング』は、13日(木)11:00から映像ホールでも上映される。
『シンプル・シモン』アンドレアス・エーマン監督Q&A
「心温まるコメディで、アスペルガー症候群への理解を深めたい」
(左から)アンドレアス・エーマン監督、プロデューサーのヨナタン・ショーベリ氏、ボニー・スコーグ・フェーニー氏
恋人フリーダと暮すアパートに、アスペルガー症候群の弟シモンを引き取ることになったサム。だが、変化が嫌いで生活習慣にこだわり、他人の気持ちが読めないシモンに我慢できず、フリーダは出て行ってしまう。シモンは落ち込むサムのために、新しい恋人を探そうとあの手この手の作戦を実行する――。『シンプル・シモン』は、スウェーデンの田舎町を舞台に、兄と弟、そしてもう一人の女性との人間関係を、ポップにスタイリッシュに、そしてメルヘンチックに描いたハートフル・コメディ。
Q&Aのステージに上がったアンドレアス・エーマン監督、プロデューサーのヨナタン・ショーベリ氏、ボニー・スコーグ・フェーニー氏の3人全員にとって、この映画は初の長編作品になるのだとか。
「デジタルで撮影すると決めた時から、このデジタル映画祭に応募しなきゃと思っていました」と話すショーベリ氏は5年前にも当映画祭に参加している。しかし客席からの質問は、やはり監督に集中した。
――シモンの視点からとらえた映像には、チャートやグラフが登場します。
「あのグラフは、彼が世界をどう見ているかを表しています。彼は物事を論理的に、客観的に見ている。僕が高校生の頃に付き合っていた彼女はアーティストで、絵画のように線や影で世界を見ていました。ほかの人とは違うシモンの頭の中を理解してもらいやすいし、絵的にも面白いと思ったんです」。
――ラストは、いわゆるアメリカ映画のような派手なハッピーエンディングではありませんね。
「最後にすべて解決して丸く収まるというようなバカバカしいハッピーエンドは好きではありません。人生はそういうものではないんです。ほんの些細なことでもシモンにとっては大きな成長であり、それが幸せだと思う」。
――日本では最近になって認知され始めましたが、アスペルガー症候群はスウェーデンでは広く一般に理解されているのですか。
「スウェーデンでもまだあまりよく知られていません。アスペルガー症候群の人たちのための支援団体や学校はありますが。映画の目的のひとつは、この障害に対する理解を深めることでした。大変なことや辛いことを描く重い映画ではなく、心温まるコメディにすることで大勢の人に見てもらいたいと考えたのです。幸いこの映画によって、これまで以上に知られるようになったと思います」。
『シンプル・シモン』は、14日(金)14:30から多目的ホールでも上映される。
『短編映画(1)』Q&A
『短編映像作品「死神」』の山口直哉監督、『こぼれる』の手塚悟監督が登壇
『短編映像作品「死神」』の山口直哉監督(左)と三遊亭円佐衛門(右)
長編と同じく10月9 日から上映が始まった短編コンペティション部門では、3作品ずつ4プログラムに分けて全12作品が紹介される。その第1弾である『短編(1)』では、『8月8日午後4時』、『短編映像作品「死神」』、『こぼれる』が上映された。上映後のQ&Aには、『短編映像作品「死神」』の山口直哉監督と出演の三遊亭円左衛門さん、『こぼれる』の手塚悟監督、出演の倉田大輔さんが参加した。
家も仕事も失い、死を決意した男の前に死神が現れてある助言を与える『短編映像作品「死神」』。帽子に白塗りメイクに髭、というちょっと変わったスタイルの死神を登場させたことについて山口監督は、
「黒い布を被った骸骨のイメージではなく、死神の感情や過去も扱ってもっと人間っぽく描きたかった。『ドグラ・マグラ』という映画を参考にはしましたが、映像より横尾忠則さんのアングラ・ポスターなどを見てイメージを膨らませました」と話した。細かいカッティングでつないでいくため、同時カメラ3台を使って撮影したシーンもあるとか。
(左から)『こぼれる』の倉田大輔、冨士原直哉(脚本)、手塚悟監督
『こぼれる』は、久々に再会した友人と4回目の結婚記念日迎えた夫婦のたわいない会話の中から、それぞれの関係が次第に浮かび上がり、衝撃の展開を迎えるサスペンス。ここで詳しくは明かせないが、このラストについて手塚悟監督は、
「びっくりされた方もいらしたと思います。最初の段階では結末が違っていて、もっとブラックな話だったんです。でもいろいろな意見を聞いて、自分が衝撃度で選んだラストを『浅いな』と感じました。スクリーンの向こう側の話じゃなくて、見てくれるお客様のすぐそばにあってほしいという思いであのラストに選びました。すべてが意味深に見えたかもしれませんが、そういうすき間をあえて想定して作っています」。
『短編(1)』は、12日(水)11:00から映像ホールでも上映される。
『カラーズ・オブ・マウンテン』カルロス・セサル・アルベラエス監督Q&A
「子供たちの自然な演技が、映画に詩を与えてくれた」
カルロス・セサル・アルベラエス監督
コロンビアの山あいにある小さな村に住むマヌエルは、サッカーが大好きな少年。ある日、友だちとグラウンドで遊んでいると、誕生日に買ってもらったばかりのボールが地雷の危険区域に入り込んでしまう。何とか取り戻そうとするのだが、そんな間にも、ゲリラの暴力に怯える村からは、次第に人々が去って行く……。『カラーズ・オブ・マウンテン』は、美しい緑の山々を背景に、少年の目から見た変わりゆく村の様子を淡々と描いた作品だ。
映画の実現までに9年かかったというカルロス・セサル・アルベラエス監督は、上映後のQ&Aで、まず映画に主演した子供たちへの感謝を述べた。
「映画に登場する3人の少年たちは、映画の鍵を握る大事な存在です。ですからキャスティングに2年かけ、主人公のマヌエルは7000人の候補者の中から選びました。彼らの自然な演技が、映画に詩を与えてくれました。今日ここに彼らも来られたらよかったのですが」。
映画を見て誰もが思うだろうことは、素人同然の子供たちから、どのようにあの自然な演技を引き出したのかということだ。
「子供たちには、脚本を渡しませんでした。事前に練習してしまうと自然さが失われてしまうからです。プロの俳優ではないので、リハーサルしすぎるとうまくいかないし、全くしなくてもうまくいかない。料理の加減と同じです(笑)。彼らが初めて完成した映画を見た時、理解できないところがたくさんあったと言っていましたが、何度も見て、次第に映画に出演したことを誇りに思ってくれるようになりました」。
コロンビアの政治的・社会的な状況は、外国人である私たちにはあまりなじみがなくわかりにくいが、現在国内避難民が500万人以上いるという。
「これはコロンビア人から見ても危機的状況です。都市には避難民が溢れていますが、一般的な国民はこれ以上考えたくないからと、問題から目を背けています。しかしこの映画がヒットして、また少し関心が高まりました。数多くの海外映画祭で上映されたことで、海外にも訴えかけることができたと思います。映画に現実を変える力はないかもしれなませんが、人々の意識を動かす機能は持ち得ると考えています」。
『カラーズ・オブ・マウンテン』は、13日(木)10:30から多目的ホールでも上映される。
『キニアルワンダ』のプロデューサー、ダレン・ディーン氏Q&A
「大虐殺という惨劇があってなお、許し合おうとするルワンダの人々」
プロデューサーのダレン・ディーン氏
1994年、アフリカ・ルワンダで起きた大虐殺。『キニアルワンダ』は、100日間で100万人もの犠牲者が出たともいわれるこの凄惨な民族間紛争を背景に、ツチ族、フツ族の市井の人々や、虐殺に加担した人たち、宗教の違いを超えて助け合おうとする指導者たちなど、それぞれの生活や葛藤を描く力強いドラマだ。実話をベースにしており、その映像はリアルで衝撃的だが、一方で希望に満ちた作品でもある。
来日できなかったアルリック・ブラウン監督の代わりに、プロデューサーのダレン・ディーン氏が上映後のQ&Aに登壇、映画の興奮冷めやらぬ観客からの質問に答えた。
――映画の中で、ルワンダの人々が英語を使っていることについて教えて下さい。
「この当時ルワンダでは、ベルギーの植民地だったという束縛から逃れようと、第二言語として英語を話す人が増えていました。キニアルワンダ(ルワンダ語)やスワヒリ語を話す人もいて、出演者には、自分の話しやすい言葉で喋ってもらうようお願いしました」
――クロースアップが多用されています。
「監督と撮影監督の間で決めた事ですが、クロースアップには、親密さを表現したかったということと、出演者の皆さんの美しい顔、グラデーションのあるさまざまな肌の色を撮りたかった。ジェノサイド当時からかなり風景も変わっており、ロングショットで撮ることができなかったという事情もあります」
――実話に基づいているということですが、具体的にはどの部分でしょうか。
「宗教の壁を越えて協力し合う指導者たちや、両親を失った娘の話など、映画で描かれている事柄はすべて実話に基づいています。エグゼクティブ・プロデューサーのイシュマルンティハボセが、脚本も書いている監督のアルリックをルワンダに連れて行き、そこで人々から取材した様々な話をもとに脚本を作っていきました。実際にジェノサイド(大量虐殺)の加害者たちを裁判にかけるには百年以上かかるため、政府はその代わりに人々に許すことを求め、国民全体がそれを受け入れています。これは、アメリカ人の私には非常にインパクトのある経験でした。足を踏まれたなどささいなことで怒るアメリカ人に対し、ルワンダの人々はジェノサイドのような悲惨なことがあってもなお許し合おうとしているのです」。
――途中でアニメーションが挿入されるのはなぜですか。
「アニメーションを使うことは、私も最初は不安でしたが、監督に説明されて納得しました。大量虐殺が行われているさなかにも、人々の暮らしは続いていたという事実があり、少年が頭の中でファンタジーを描くこともあるし、若者たちはダンスに興じたりもするのです」。
最後にディーン氏は希望者に映画のポストカードを配った。「これは実際に使えるハガキです。これで人々に愛や許しのメッセージを届けて下さい」。
『キニアルワンダ』は、14日(金)17:00から映像ホールでも上映される。
『DON’T STOP!』小橋賢児監督が映画への熱い思いを語る
小橋賢児監督
交通事故で下半身と左腕の自由を奪われた車椅子の不良オヤジ、CAP。「一度でいいから、アメリカに行ってルート66をハーレーで走りたかった」という彼の長年の夢を実現させようと、仲間たちと、娘たち、母親とその友人、20代から70代までの男女総勢15名が、アメリカに向けて旅立つ――。『DON’T STOP!』は、テキサスからロサンゼルスまで、4,200キロを疾走する彼らの姿を追った感動のドキュメンタリー。
NHKドラマ「ちゅらさん」や映画『スワロウテイル』など、俳優として数多くの作品に出演し、現在はPVの監督やイベントプロデューサーなどマルチな活動を展開している小橋賢児の長編監督デビュー作だ。
10月9日、長編コンペティション部門参加作品のトップを飾った同作の上映のあと、小橋監督がステージに登場。映画への熱い思いを語った。
「映画にも登場するライターで自由人の高橋歩さんにこの旅の計画を聞いた瞬間、脳みそがスパークしたというか鳥肌が立って、その場でこの映画を撮らせて下さい! と言ってしまいました。年代や仕事のジャンルを越えた人たちが集まった旅は、先が見えないからこそ面白いものになると直感したんです。CAPさんに出会って、自分自身にもそういう時期があったんですが、障害や社会の状況なんかを言い訳にして、自分の可能性に蓋をしていると感じました。夢を諦めちゃいけない、やろうと思えば絶対にできるんだ、ということを描きたかった。歩さんのトークライブとこの映画を上映するツアーで、CAPさんと一緒にモーターホームで全国を回ったんですけど、CAPさんは毎回同じところでお客さん以上に号泣してました(笑)。デコボコな旅でしたけど、結果的に皆さんに喜んでいただけたことはホッとしましたね。旅のメンバーたちはみんな心で動いていた。震災の後に見直されるようになった日本人の助け合う心や、人生を楽しむ心が、この映画には秘められていると思います。ぜひいろいろな世代の人に見ていただきたいです」。
『DON’T STOP!』は、13日(木)17:00から多目的ホールでも上映される。