デイリーニュース
SKIPシティ・セレクション
『月あかりの下で~ある定時制高校の記憶~』上映
キャプション:(左から)太田直子監督、平野和弘先生
プロムナードで行われた太鼓集団「響」コンサート 10月12日、SKIPシティ・セレクションとして、定時制高校の4年間を追ったドキュメンタリー『月あかりの下で~ある定時制高校の記憶~バリアフリー版』が上映された。
映画の舞台となるのは、2008年に閉校となった埼玉県立浦和商業高校定時制課程。40人中37人がかつて不登校を経験しているという新入生たちが、どんな問題や悩みを抱えながら学校に通い、衝突し、友情を育み、成長し、卒業していったかを至近距離からとらえている。「生徒を絶対に切り捨てない」という決意のもと、寛容に、そして時には厳しく彼らに接する教師たちの姿も印象的だ。
上映後のQ&Aには、太田直子監督、そして映画に登場するこのクラスの担任、平野和弘先生が登壇した。「2001年に浦和商業の定時制を統廃合するという計画が発表になりました。本当に閉鎖すべき学校なのかどうかを、第三者の立場から評価してもらうため、研究者やさまざまな方にお願いしました。太田さんもその中の1人です」と平野先生。
太田監督は、「私も計画を食い止めることに協力したくて撮影に入ったんですが、最初は生徒から盗撮ババアとか言われて(笑)。でもどうして彼らがああいう振る舞いをするのか、どういう思いで来ているのか、本音を知りたくなって通いました。最初は1年間位のつもりで、生徒たちがこういう風に変わっていくといいなと思っていたんですが、先生に『そんな簡単には変わらないよ』と言われた通りで。結局4年間、着地点を待つ形になりました」。
先生や現役の生徒、「定時制に通って人生が変わった」という卒業生ら大勢の人たちの訴えも空しく浦和商業の定時制は閉校になり、「来るはずだったのに来られなかった人もいる。今ある定時制は定員満杯で、やんちゃするような子たちが排除されるような流れができつつあるのが心配です」と平野先生は訴えた。
この日、先生の教え子たちが上映に駆け付けたことからも、生徒たちとの強い絆がうかがえる。上映後には、映画に登場する浦和商業太鼓部を前身とする太鼓集団「響」の演奏が行われた。
「響」は、映画祭期間中、NHK公開ライブラリー2Fで「シネマカフェHibiki」を出店している。
招待作品『カルテット!』 三村順一監督舞台挨拶
「浦安市の方々が総力を上げて映画の制作に協力してくれました」
三村順一監督
リストラされた父、息子に夢を託そうする母、才能ある弟にコンプレックスを抱く姉――バラバラになってしまった家族の心を、「家族カルテット(四重奏)」を通してもう一度ひとつにしようとする物語『カルテット!』は、舞台となっている千葉県浦安市の市民が一丸となって制作をバックアップした映画。12月7日からの地元浦安のシネマイクスピアリでの先行公開に先がけ、10月12日、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011の招待作品として全国初となる一般上映が行われ、三村順一監督が舞台挨拶に立った。
「この映画のクランクインは3月29日、東日本大震災のあとです。本来はもう少し早くインする予定だったんですが、震災の影響でロケハンした場所が9割方使えなくなり、延期も考えました。原作の鬼塚忠さんは浦安在住の方で、これは町のみんなと映画を作ろうということで震災前にスタートした企画。町の方々から『がんばって作りましょう』という声をいただいて、最終的には800人位の市民の方がエキストラだけでなく食事の炊き出しなどボランティアとして参加、総力を上げて映画の制作に協力してくれました。これは壊れかかっていた家族が音楽を通して再生してく物語。震災を経て、それまで照れて口に出せなかった “絆”というものを皆が真剣に考えるようになった今、この映画の親子や兄弟、家族の絆というテーマがみなさんに伝わるといいなと思います」。
『カルテット!』は、来年1月7日から全国ロードショー予定。
『SPINNING KITE』 加瀬聡監督・出演者Q&A
「撮影前から幼なじみみたいな感じがありました」
(左から)加瀬聡監督、中村倫也、内野謙太、伊藤友樹、醍醐直弘
純、文次、城戸、真木は、中学生の頃からパンクバンドを組んでいる仲間同士。今はひたすらライブでエネルギーを燃焼させているが、そろそろ進路や仕事、家族の問題に答をみつける時期に来ていることを感じていた――。『SPINNING KITE』は、千葉県木更津市を舞台に、4人の若者の悩みや葛藤、焦燥、そして友情を描く青春映画。
加瀬聡監督と共にステージに上がった主演の中村倫也さん、内野謙太さん、伊藤友樹さん、醍醐直弘さんの4人は、映画と同じように和気あいあいとした雰囲気。
「彼らは400人くらいの中から選んだんですが、この4人が最初に顔合わせをした時点で大丈夫だなと確信しました」と加瀬監督。4人の中でバンド経験があったのは伊藤さんだけで、ほかの3人は楽器を演奏するのも初めてだったという。
「演奏シーンは、僕たちが演奏しているものを音も生で撮っています。撮影前、自分たちでプライベートな時間にスタジオを予約して一緒に練習していたこともあって、ライブシーンは“キターッ!”という感じがしましたね」(伊藤)
「撮影では実際のライブハウスで実際のお客さんの前で演奏したんです。だから反応が計算できないというか、目の前を人が飛んだりとか(笑)。ここはシメていかなきゃと思いました」(中村)
「バンドの練習もありましたし、4人一緒のシーンを先に撮ってもらったことや撮影の合間もずっと一緒にいたこともあって、僕らの間の結束力が高まっていたんじゃないかと思います」(内野)
「撮影前から幼なじみというか中学校の同級生みたいな感じはありましたね。全員が愛を持って作った作品なので、それを感じてもらえたら嬉しいです」(醍醐)
「髪形を変えたり、11キロ痩せたり、吸わないタバコを吸ったり、みなさん本当にありがとうございました」と加瀬監督は改めてキャストの4人に感謝の言葉を述べた。「自分は凡人だけど、凡人にしかできない映画を作ろうと思いました。ありふれた物語ですが、それでもそこから滲み出てくる何かがあると思います」。
『SPINNING KITE』は、15日(土)11:00から映像ホールでも上映される。
『荒野の彼方へ』ヴァンニャ・ダルカンタラ監督Q&A
「夫と引き離されシベリアに強制移住させられた祖母の体験をもとにした物語」
ヴァンニャ・ダルカンタラ監督
1940年ポーランド。夫が従軍している間に、侵攻してきたソ連軍によってニナは赤ん坊と共に辺境の地に強制移住させられる。そこで待っていたのは凍てつく大地と国営農場での過酷な労働だった。劣悪な環境のなか赤ん坊が重い病気にかかり、ニナは薬を手に入れるため遊牧民たちと荒野に踏み出す――。子供のために苦境に立ち向かう母の姿を、厳しい大自然の中に映し出す『荒野の彼方へ』。監督のヴァンニャ・ダルカンタラは、祖母の日記をもとに物語を組み立てていったという。
「ポーランド東部に住んでいた祖母は、第二次大戦中に夫と引き離されて赤ちゃんと共にシベリアに送られ、戦後になって戻ってきました。この物語は彼女の体験をもとにしています。収容所のシーンで描かれる薬不足や死は、ここで過ごした女性たちが実際に体験したことで、そこに私の創作も加えています」。
撮影はカザフスタンで、春と冬の2回に分けて行った。
「冬のシーンは雪景色を想定していたのですが、撮影に入った12月初旬、全く雪がなく、どう撮るか悩んだ末に早朝から撮影することにしました。早朝は地面に霜が降り、霧も出ていて、結果的に雪よりも厳しい冬の雰囲気を出すことができたと思います。また、風景を詩的に描こうとしました。祖母の日記に、“辛い時、心を慰めてくれたのは自然の美しさだけだった”とあり、それを表現したかったのです。音楽をほとんど使わなかったのも、メロドラマにしたくなかったという理由もありますが、祖母がシベリアにいた3年間、全く音楽を聞くことがなかったと言っていたから。戻って来て初めて音楽を聴いた時、涙が出たそうです。その感覚を観客にも味わってほしかったので、音楽は自由になった最後のシーンにだけ使いました」。
それにしても母親ニナを演じるアグネシュカ・グロホフスカが素晴らしい。
「彼女はポーランドでキャスティングしました。カザフスタンでの6週間の撮影は外部との接触が全くない状態で、スタッフやキャストにとっても非常にパーソナルな体験だったと思います。あの場で彼女自身が体験していることと役とが重なり合い、彼女は100%以上の真実をスクリーンに投影してくれました」。
『荒野の彼方へ』は、15日(土)14:30から映像ホールでも上映される。