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【デイリーニュース】 vol.03 『情操家族』 竹林宏之監督 Q&A
女性教諭が仕掛ける情操教育と新しい“家族”の形を描いた異色作
『情操家族』の竹林宏之監督
映画祭2日目。日本映画最初の上映作品は、国内コンペティション長編部門の『情操家族』。竹林宏之監督が、東京藝術大学大学院映像研究科修了作品として制作した、教育に、人間関係に、体裁を気にせず坦々と立ち向かう女性教諭を描いた異色ドラマ。息子との仲は良好、学校では学習の遅れた生徒のサポートやいじめ問題に取り組む小学校教諭の今日子。満たされた生活を送っていたつもりだったが、ある日、合宿に参加していたはずの息子が万引きをしたと呼び出される。
今日子先生をめぐるこの物語は、教育方針について問う作品のようにも、今日子という“作家”の空想世界を描く作品のようにも見える構造。竹林監督にその部分を紐解いてもらった。
「今日子先生は、教育本も書いている教師。その本のタイトルが『情操家族』なんです。熱心な教育者である彼女は、自分を客観視し、自身の家族や、教え子の家族に起こる問題を分析している。問題の渦中にいながら、記録しているんです」
この映画の発端には、まず“情操教育”というモチーフがあった。
「脚本の今橋貴さんと相談しているなかで、今日子先生がやっている指導は“情操教育”なんじゃないかとなった。その“情操”という言葉が面白かったので、これをフィーチャーすることにしました。また、彼女には、人の感情を操作するかのような部分があり、本来の“情操”の意味とは異なるかもしれませんが、そんな部分も含めてのタイトルとなります」
映画には、今日子先生、高校生の息子の三四郎くん、元の夫という家族、問題を抱える教え子の鉄平くんと、その母・美映、別居中の夫・裕二という家族、そして学校というコミュニティが存在し、それらのなかで物語が進行する。情操というテーマはその各所に潜む。
「今日子先生は、鉄平くんの補習をしながら、毎朝必ず“おはよう”と呼びかけます。最初は反応の薄かった彼も、次第に挨拶を返すようになり、それは見守っていた鉄平くんの母・美映に伝播し、今度は美映が今日子先生の息子に挨拶をするよう説教するという行動につながります。ひとつの行為が、さらなる行為につながっていく。そういうことは意識しました」
プロを配したキャスティング。今日子先生役は最初から山田キヌヲさんにお願いしたいと考えていたと竹林監督。
「山田さんでなければ、嫌悪感を持たれるキャラクターになっていたかもしれません。山田さんは、今日子を、ある時は熱心な教育者で、ある時は優しいお母さんと、多面的に演じてくださいました。コミカルな今日子の動きには、細かい指示は一切していません。曲線的に走ったら、いきなりスクリーンを横切ってくださいなどと、大まかな動きを伝えただけ。山田さんが今日子を作りあげてくれました」
会場から、今日子先生は薄給だと嘆くが、結構な佇まいの家に住んでいますね? と質問が出る。
「よく指摘されます。ロケハン時にずいぶん迷ったのですが、和風でありながら、洋風で、ベランダにクリスマスツリーを置けるテーブルがあるなど構図が魅力的だったのでこの家に決めました。今日子先生みたいな独特なキャラクターの人が、だだっ広い家に息子と二人で暮らしている図が、面白いなと思ったんです」
今日子先生がケガをした女性と、小学生の女児を背負い、3人で誰もいない学校を突き進むシーンがある。様々な受け止め方が楽しめるシーンだが、敢えて監督にヒントをもらった。
「今日子は、倒れている人を見たら、背負わずにはおれない人なんです。それは彼女にとって、幸せなのか、不幸なのかはわかりません。でも彼女は、損得でなく行動する人なんです」
同じシーンで今日子先生は、誰にともなく「キョウコ」と呼びかける。それは「女児も、ケガをした女性も、ある意味、今日子先生なのかもしれません」と竹林監督は話してくれた。
今日子先生と美映の家族が本音をぶつけ合う、キッチン、居間、テラスを使ったワンシーンワンカットも印象的な『情操家族』。次回上映は、7月17日(火)17時から多目的ホールで行われ、Q&Aも予定されている。