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【デイリーニュース】 vol.08 『岬の兄妹』片山慎三監督、松浦祐也、和田光沙 Q&A
圧倒的なリアリティに目が離せないビビッドな作品
(左から)『岬の兄妹』の片山慎三監督、和田光沙、松浦祐也
「知的障害のある妹と暮らす片足の不自由な兄。失業し生活に窮した兄は妹に売春をさせ、生計を立てようとする」というストーリーの『岬の兄妹』。監督自ら「きわどい」というテーマの作品に、観客も少々身構え気味。しかし観終わった後の拍手には満足感が感じられ、質問の手が次々と上がった。
登壇したのは監督の片山慎三、兄・良夫役の松浦祐也、妹・真理子役の和田光沙の三人。
まずはこのテーマについて、どのように考えていったのかという質問に、監督は「27歳のころに書いた脚本があって、それは兄妹じゃなかったんです。韓国映画の『悪い男』みたいに、知的障害の女に悪い男が売春させようとする話でした」と答えた。
「松浦さんに相談したら『兄妹にしたらいいんじゃない?』と言われ、それは! と思い全部書き直してできたのがこの脚本です。兄の役は松浦さんに決まっていたので、妹役をどうしようと、10人くらいオーディションしました。和田さんなら、あまり悲壮感なく、笑える面も見せながら演じてくれるのではないかと思ったんですね」
主役は決まったが、他の出演者のキャスティングに苦労したそう。
「子役の事務所に連絡して怒られたり、高齢の俳優さんに真理子の客役を頼んで断られたり……。子役はスタッフの娘さんに、高齢の客役はエキストラの方にお願いすることでどうにかなったんですけどね。エキストラの方はずっとAVの撮影だと思っていたらしいですが(笑)。けっこうアドリブを入れたりしてくれて、面白いシーンになりました」と監督は語る。
もう一人、真理子の客である小人症の青年を演じているのは俳優であり監督でもある中村祐太郎だが、彼は松浦と和田の共通の知人。
「真理子が好きになる人として、相手も障害を持っている人がいいなと松浦さんに相談したら、それなら中村君がいいよと紹介してくれて。和田さんとも仕事をしたことのある方だったので相談したら出ていただけることになったんです」
知的障害があるという設定の真理子を演ずる和田光沙が絶賛された。どんなふうに役作りをしたのかという質問に、「片山監督からは『いわゆる』という感じのステレオタイプの演技はやめてくださいと言われていました。最初はドキュメンタリーを観て話し合ったりしていたんですが、途中から“自分が興味を持ったことを常に一番に行動する、その瞬間一番したいことをビビッドに実行する”ようにしたら、撮っているうちに楽になって、あまり意識しないで演じられるようになりました」と和田。
監督は「自閉症の妹を撮った、赤﨑正和監督の『ちづる』というドキュメンタリーがあるんですが、最初はそれを観てもらったんですよね」と付け加える。「話し合ってその中から参考にしたものもあったけれど、撮っていくうちに和田さんのオリジナルになっていきました」
「撮影は2016年の2月から2017年の3月まで、四季折々に撮って全部で20日間かかりました。台本は季節ごとに書いて俳優に渡しました」と監督は言うが、和田によれば「後半は脚本らしいものもなく、何をするかわからないまま、車でロケ地に移動し、その間に今日は何をするのか聞いたりしていました」とのこと。
「ライブ感が欲しくて、最後はこうなるって知っていて演じてほしくなかったんです」と監督。なるほど、最後までこの兄妹はどうなるのか、兄はどうするのか、目が離せない作品になっている。監督の、そして監督の挑戦を受け止めた二人の役者の、どちらも「勝ち」な作品である。
『岬の兄妹』は次回、7月18日(水)14時から多目的ホールで2回目の上映が行われ、Q&Aに片山慎三監督、兄役の松浦祐也、妹役の和田光沙が登壇する予定。