ニュース
【デイリーニュース】 vol.11 『招かれざる者』エドン・リズヴァノリ監督 Q&A
コソボ出身の監督が描く、紛争の影を背負った親子の物語
『招かれざる者』のエドン・リズヴァノリ監督
国際コンペティション部門出品のコソボ・オランダ合作『招かれざる者』は、コソボ紛争を背景に、現代のアムステルダムに暮らすコソボ難民の母と息子の姿を描いた。ラストには大きな衝撃が待ち受ける。
コソボ紛争は1990年、セルビアのコソボ・メトヒヤ自治州で9割以上の人口を占めていたアルバニア人が独立を宣言し、「コソボ共和国」を樹立したことが発端。1997年頃、アルバニア人によるコソボ解放軍が、セルビア人優先の政策を行使するセルビアに武力攻撃を開始し、1998年から1999年にかけて紛争が激化。その結果、多くのコソボ難民が生まれた。
映画の舞台はアムステルダム。コソボ難民のアルバニア人ザナは、ケンカばかり繰り返す息子のアルバンを心配している。アルバンはアルバイト先の自転車店で知り合ったアナと仲良くなるが、彼女の父親はコソボからやってきたセルビア人だった……。
エドン・リズヴァノリ監督はコソボ出身のアルバニア人。1992年にオーストリアで俳優として活動をスタート。米ニューヨークのリー・ストラスバーグ演劇学校で2年間にわたりメソッド演技法を学んだ。2007年からアムステルダムで暮らし、自身のアイデンティティーを基にした本作で長編監督デビューした。本作は、2017年のカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でワールド・プレミアされ、米アカデミー賞外国語映画賞コソボ代表作品にも選ばれた。
監督は本作を撮ることになった理由について、「俳優を長くやっていて、ニューヨークで演技の勉強をしていたときに、映像の勉強もしました。その後、オーストリアに渡ったときにコソボ紛争が起こり、オーストリアに住むアルバニア人、セルビア人が紛争をどう見ているか、という内容のドキュメンタリーを撮りました。戦後、コソボに戻り、編集担当として働いたり、CMやMV、短編などを作ったことが、今回の映画につながりました」と説明する。
劇中では、コソボ紛争をめぐる複雑な民族問題、難民2世のアイデンティティー問題などが提起されているが、「映画のメッセージは観客一人ひとりに委ねたい。アルバンが成長していくという点では希望がある。一方、何かしら彼が犠牲を払わなければいけないこともあるのかもしれません。ですが、私が決めてしまうのではなく、オープンな形にしたいのです」と話した。
アルバニア人とセルビア人の民族問題が解決するまでには、まだ長い時間がかかると考えている。「紛争のとき、多くの犯罪が行われていました。公的な機関の調べでは、2万人のアルバニア人の女性がレイプされ、1700名が行方不明になっています。これらは目に見える形の“傷”ですが、未だに謝罪がなされていません。前に進むためには、まずは認識と謝罪が必要です」。
次回作として、4つのショートストーリーの中で、キャラクターが絡み合うダークコメディを企画中という。「脚本を書いている段階なので、はっきりと言えませんが、あらゆる形の汚職が起こるという内容で、重いテーマではありません。ドラマ要素、アクションもあります」と監督。次回作のSKIPシティ国際Dシネマ映画祭への出品も約束した。
『招かれざる者』の次回上映は、7月18日(水)21時からMOVIX川口。上映とQ&Aは19日(木)14時から多目的ホールで行われ、エドン・リズヴァノリ監督が再登壇を予定している。