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【デイリーニュース】 vol.15 特別企画〈ヨーロッパから見た日本映画〉映画祭「ニッポン・コネクション」プログラム・ディレクター、マーティン・ブレゲンツァー
同映画祭観客賞受賞『Start Line』汗と涙の日本縦断! 今の日本映画をヨーロッパの観客へ
左から「ニッポン・コネクション」プログラム・ディレクターのマーティン・ブレゲンツァー氏、『Start Line』の今村彩子監督、土川勉映画祭ディレクター
ドイツ、フランクフルトで開催される世界最大の日本映画祭、ニッポン・コネクション。今年5月に開催された同映画祭で、ニッポン・ヴィジョンズ観客賞を受賞した今村彩子監督の『Start Line』が、映像ホールにて上映された。
生まれつき耳が聞こえず、健常者とのコミュニケーションに壁を感じ続けてきた監督が、自らの殻を破るため、自分を変えるために、沖縄から北海道まで自転車で旅をする。57日間にも及ぶ旅の姿を捉えたセルフ・ドキュメンタリーだ。
上映終了後は、ニッポン・コネクションのプログラム・ディレクターであるマーティン・ブレゲンツァー氏を招いてのトークイベントが行われた。2000年から開催されたニッポン・コネクションは、インディペンデント映画を中心に、今現在の日本映画の優れた作品や才能を発掘して、ヨーロッパの観客への橋渡しをしている。
「今村監督の以前の作品、『架け橋 きこえなかった3.11』(13)も私どもの映画祭で上映したことがあり、本作で2度目の招待となりました。ニッポン・コネクションの観客は、日本の映画にも、日本の文化や風俗そのものにも関心のある方々が多いのです。監督自身が自転車に乗って、いろいろな町を走り、そこに住む人々と交流する様子を鮮やかに切り取っているこの作品は、ドイツの観客に新鮮な感動をもたらしました。東京といった大都会ではなく、ごく普通の日本の町と、その魅力をも描かれていて、ロードムービーとしても大いに楽しめる内容となっていました」
毎年、何百本もの日本映画の中から、これぞという作品を選定するプログラム・ディレクターの目から見た現在の日本映画の状況についてはこう語る。
「映画会社、それも大手会社によって作られる作品は、製作委員会方式が徹底しているためか、原作ものが非常に増えていますね。すでにヒットしている小説やマンガやライトノベルの映画化が、今はほとんどではないでしょうか。正直なところを申しますと、かつてと比べると大胆さがなくなっているように思えます。一方インディーズ映画も似たテーマの作品が多いように見受けられます。若者が自分の未来を模索して街をさまよい歩くけれど、なかなか答えが見えないという……。これは、映画学校で映画の作り方を学んだ若手監督に見られる傾向ですね。『自分の抱えている悩みを描きなさい』という指導を、授業で受けるのでしょう。それで、結果的に同じようなテーマの作品が増えてしまう。となると、肝心なのは、その中でどれだけ自分の個性を見つけ出せるか、になってゆきますね。 たとえば石井裕也監督『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』のように」
今後の課題は、日本映画の多様性を今以上にドイツ、そしてヨーロッパの映画ファンに伝えていくことだという。
「カンヌ、ベルリン、ヴェネチアといった三大映画祭がまだ発見していない、新しい映画や才能をこれからも探して、紹介していきたいです」。トークの終盤には、地元の名古屋から駆けつけた今村監督も登壇した。映画の中で自分の体に巻きつけていた、お手製の「日本縦断」の旗を披露して、「私の汗と涙を染み込ませた旗です」とご挨拶。「作品の中では、泣いたり、へこたれたりと、みっともない姿をさらしてしまっているので、こうして見てくださった皆さまの前に出るのはすごく恥ずかしいんですが、見てくださって本当にありがとうございました!」
今村監督は5月に開催されたニッポン・コネクションへは、スケジュールの都合上参加することができなかったので、ブレゲンツァー氏とは久々の再会。壇上で旧交を温めあった。