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【デイリーニュース】vol.04 『ファルハ』ダリン・J・サラム監督 Q&A
人々を通して伝えられた「映画にしなければ」と思った不屈の物語
ダリン・J・サラム監督『ファルハ』
国際コンペティション部門の貴重な来日ゲストの1人『ファルハ』のダリン・J・サラム監督。本作は、イスラエルが“独立”を宣言した1948年を、ある小さな村に住む少女ファルハの視点で描いた物語。実話をベースにしている。
若いうちの結婚こそが女性の幸せと考える、パレスチナの小さな村に住む14歳のファルハ。都会で高等教育を受けることを熱望している。一方で、国の情勢は悪化。そんなある日、村に銃声が鳴り響く。愛する父によって自力で出ることのできない頑丈な食糧庫に匿われたファルハは、否応なくそのドアの隙間から、村で起きる凄惨な出来事を目撃することになる。
パレスチナの人々は1948年に起きたことをナクバ(=大災厄)と呼ぶ。ナクバは、やがて中東戦争へと発展し、多くのアラブ人を難民にした。脚本と演出を担当した監督は、イスラエルやパレスチナ暫定自治区と隣接し、多くの難民を受け入れたといわれるヨルダン出身だ。
サラム監督はなぜいまナクバを題材に映画を作ろうとしたのか? と問われた監督は、「このストーリーがずっと私について回り、離れなかったから」なのだと答える。「私はこだわりがあって、映画にしなければと思う作品しか撮りません。題材から私のほうにやってくるのです」と。
そんなサラム監督に、ファルハのモデルとなった女性の体験したタフな物語を聞き、伝えたのは誰だったのか?
「1948年、ナクバを経験した少女は、閉じ込められた食糧庫から脱出し、シリアにたどり着きます。そこで彼女はある女の子に出会い、自分の経験を伝えました。女の子は成長し、それを自分の娘に話します。その娘が、いまここにいる私なのです」。そんな奇跡的な話とともに、サラム監督はこの物語が真実であること、知らないどこかで起きた話ではないことを伝えた。
「私はずっと、食糧庫に閉じ込められた少女のことを考えてきました。そうやって幼い頃から推し量ってきたファルハの気持ちにインスピレーションを受け、倉庫の中にいる彼女の視点でナクバを描こうと考えました。外の世界も映すことにしたのは、彼女にはどんな日常があって、何が奪われたのかを伝えたかったからです」。
配信隆盛の昨今、なぜ映画というメディアでこの物語を発表したのかという問いには、「私が、映画、そして映画館が好きだからですね。ファルハの物語を、映画言語を用いて描きたかったというか。やがてこの作品も配信で観られるようになると思いますが、まずは映画館で観客のリアルな反応とともに味わってもらいたいと思ったのです」。
ジャパンプレミアとなる『ファルハ』は、トロント国際映画祭でワールドプレミアされ、釜山、ローマ、ヨーテボリなどの国際映画祭に招かれた。本作とともにさまざまな国を旅したサラム監督はこう語る。
「旅をしていて思うのは、女性を取り巻く環境にはまだいろいろ問題があるということ。よく『中東で女性が監督する大変さ』について聞かれますが、監督するということだけで言えば、女性だから大変なのではなく、向き不向き、適正の問題なのだと思っています。ちなみに『ファルハ』のスタッフは、多くの責任者が女性です。でも、それは私が望んだからではなく、適任者を選んだらたまたま女性だっただけ」。
女性にかかるバイアスの問題は、「これから撮る映画の中でも描いていこうと思っている」とサラム監督は語る。
Q&Aの司会を担当していた土川勉ディレクターは、偶然にも今年は本映画祭の国際コンペティション部門に選出された半分が女性監督の作品となったことを付け加えた。
『ファルハ』の次回上映は7月20日(水)11時から映像ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月21日(木)10時から7月27日(水)23時まで。