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【デイリーニュース】vol.09『ヴァタ ~箱あるいは体~』亀井岳監督 Q&A

マダガスカル音楽に魅せられていつしか映画を撮っていた

亀井岳監督『ヴァタ ~箱あるいは体~

 

国内コンペティション作品ながら、全編マダガスカルロケでマダガスカルの人々と文化を描く「“和製”マダガスカル映画」『ヴァタ ~箱あるいは体~』。亀井岳監督がマダガスカルを舞台にして作品を撮るのは2014年のドキュメンタリー『ギターマダガスカル』に続いて2本目。前作の撮影時に出会った「骨を運ぶ人々」が忘れられず、ファンタスティックな劇映画として作り上げたのが本作である。

 

マダガスカル南東部の小さな村。出稼ぎに行って亡くなった娘ニリナの骨を、しきたりに従って持ち帰るため、弟タンテリと3人の男たちが楽器を担いで旅に出る。

「“お骨”を大事にするところなど、何となく日本とも似ているような気がします」という感想に亀井監督。

 

「彼らのおともらいの儀式を見て、幽玄だな、薪能のようだなと思ったんですよ。先祖は死んでも存在していて見守ってくれるものという概念が日本と似ているのかもしれません。ただ彼らにとって死んでも人生は永遠に続いている。だから骨が大切なんです。ただし、それは大っぴらに言うものではなくタブーでもある。だから今回『骨を運ぶ話を作りたい』と、協力してくれる人たちに説明するのが大変でした」

 

「マダガスカルの人たちは霊の存在を信じています。憑依の文化もありますね。死んだ人が現れたり、祖先が乗り移ったりする。夢の中に出てくることもある。長老のルナキは祭司でもあるので先祖の世界と交流ができる。それでニリナの墓のために木の像を作れと老人に命じますが、ニリナ本人の霊が現れて一緒に木を探したり墓の場所を決めたりします」

 

この霊や祖先とコミュニケーションをとるために必要なのが音楽である。骨を受け取りに行く旅人たちはそれぞれに自前の楽器を抱えている。

 

「彼らは日常的に音楽を奏でます。葬式の時も他の儀礼の時も。部族によって違う音楽や楽器、ダンスがあります。伝統的な音楽があり、それを変化させてポップスやヒップホップを作る人たちもいますが、ベースは伝統音楽です。1500年前にフィリピンから船でわたってきた人たちがいて、彼らが竹の表皮を割いて弦と弓を作り、弦楽器が島に広まりました。胴は箱型の物もありますが、田舎では丸太をくりぬいて胴にすることも多いですね。

 

「実は僕がマダガスカルに出会ったきっかけも音楽なんです。30年くらい前にワールドミュージックのブームがあって、そのころ浪人生だったんですが、大阪の輸入レコード屋に通っていて、気に入って買い集めていたのがよく見たらマダガスカルの曲。マダガスカル音楽マニアだったんですよ。そのころはまさかそこで映画を作るとは思っていませんでしたが」

 

本作の出演者はほとんどが地元で探した素人だが、長老が頼りにする「離れ小屋のオヤジ」と、いなくなった3人の親族を探す「タバコ屋」はプロのミュージシャンだそうだ。

 

「離れ小屋のオヤジを演じたサミーは首都アンタナナリヴで活躍するミュージシャンで、タバコ屋のレマニンジは南西部の大きな町チュレアールの有名人。レマニンジは前作の撮影時に自転車で通りかかったので追いかけてちょい役で出演してもらい、今回は迷わずにオファーして出てもらいました。有名人らしく撮影現場には一族8人ひき連れてやってきましたよ。タバコ屋という設定も本人がタバコを売っていたからですが、それ以外の時は何をしているかというと、スモウというかレスリングの行司をやっています。パスポートを見せてもらったら00年0月0日生まれって書いてある。何でもお母さんが森に入って産み落とし、石でへその緒を切ったので生年月日がわからないんだそうです。それで正式なパスポートとして通用しているんですからね」

 

マジカルでファンタスティックな島、マダガスカルをちょっとだけ体験できる。そんな感じがする作品である。

 

ヴァタ ~箱あるいは体~』の次回上映は7月22日(金)13時50分から多目的ホールで行われ、監督によるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月21日(木)10時から7月27日(水)23時まで。
 


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