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【デイリーニュース】Vol.15『十年とちょっと+1日』中田森也監督、仲野修太朗、長森要Q&A

言葉から役に引き寄せ造形した人物による圧巻の会話劇

十年とちょっと+1日』左から出演の長森要、仲野修太朗、中田森也監督

 

国内コンペティション長編部門『十年とちょっと+1日』は、地元を離れ都会で暮らす同級生3人が10年ぶりに地元で偶然再会したことから始まる異色の青春ドラマ。これまで見たことのないような、緊張感あふれる会話劇としても注目され、本映画祭での上映がワールド・プレミアとなる。7月18日(火)14時20分から多目的ホールでの上映後に行われたQ&Aには、中田森也監督ほか、仲野修太朗、長森要が登壇、制作の舞台裏について語った。

 

小学校から一緒で付き合いも長い原崎と菊島は、ある出来事をきっかけに疎遠になっていた。一方、転校生だった森田はそんなことにも疎く、せっかく再会したのだから後で集まろうと声をかける。そこに菊島の婚約者も加わり、ひりひりとした言葉の応酬が始まる。そんな登場人物の造形はどのように行われたのだろう。

 

「まず、人物を置いて対話をさせていきました。これを何度も繰り返していくうちに、人物を掘り下げることができた。言葉から人物を引き寄せられないかと模索していた感じです」と中田監督は語る。

 

具体的には、「ほとんどの役者さんが脚本を渡されたら読み込み、頭の中でプロファイルを作り、それに沿って自分を合わせ、役を作っていると思いますが、私は頭から作るみたいなところではなく、相手とのやり取りの中でしっくりくるもの、体の中に入っていく感じを探っていました」と続ける。

 

そんな独特な演出を、原崎を演じた仲野修太朗は「ホン読みは他の撮影より長かったと思いますが、共演者とこの役はこういう人物だよねと喋る時間も長かった。監督からは特別こうしてほしいとか、答えはこうだなど言われなかったので、自分たちで考えることができたのはありがたかった」と振り返る。

 

長森も「ホン読みの最初に、もともとある脚本から自分たちの言いやすい言葉に変えていく作業があったので、演じるうえで必然的に役柄とシンクロし、自分が役柄に入っていくところがあった」と、ホン読みによる成果について語る。

 

キャスティングも、通常、自主映画の場合は知り合いや、過去の作品で起用したことがある人にお願いすることが多いが、本作は全員初めての方でやろうと公募サイトを利用してオーディションを行った。「脚本を読んでもらったりもしましたが、どんな感じの人なのかを知る時間を多く持った」。そうしたことで、満足のいくキャスティングができたと、中田監督は語る。

 

一方、オーディション時の印象を、仲野は「リラックスできる空気感を作ってくれた」、長森は「がちがちに緊張して、いろいろなパターンを考えて身構えていたのに、体感的にはあっという間、ゆるゆるした感じに終わってしまった」と笑う。

 

ロケは、現代編を千葉市花見川区で撮影。ほか、監督が10年前に散歩コースとして歩いていた東京湾周辺で行われた。5月に過去編を、7~8月に現代編を撮影したのだが、中田監督は4月にヘルニアを発症。ほぼ寝たきりの状態での撮影となった。

 

「カメラの西野正浩君は、僕がそのポジションから見たいと思っているのと勘違いし、物凄いローアングルで撮影しようとしたこともありました」と笑うに笑えない状況だったようだ。

 

撮影は同じシーンを何度も場所を変えて撮影。1日1シーンどころか、1シーンすら撮れなかった日もあったという。「スケジュールの日程だけは、スタッフやキャストに申し訳なかったと思っています。だけど自分でお金を出しているので、予定日数オーバーでダメージを受けるのも自分。だからと、納得できるまでこだわりました」と中田監督は自嘲する。

 

高速道路の車の音、電車が通る音、風が吹く音――ときに台詞をかき消すような音も、荒涼とした田舎町とリンクしていて効果的だと観客の反応も上々だった。

 

十年とちょっと+1日』の次回上映は、7月22日(土)10時30分から映像ホールで行われ、中田森也監督、仲野修太朗、金子初弥、渋谷采郁によるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月22日(土)10時から7月26日(水)23時まで。


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