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【デイリーニュース】Vol.06 『マイマザーズアイズ』串田壮史監督、内田周作、鯉沼トキ、星耕介 Q&A
ジャンルはホラーかロマンスか、底にあるのはコメディかもしれない――母と娘のSF愛憎劇
左から『マイマザーズアイズ』の串田壮史監督、内田周作、鯉沼トキ、星耕介
2020年、本映画祭の国際コンペティションに日本作品として唯一ノミネートされた『写真の女』でSKIPシティアワードを受賞した串田壮史監督。新作『マイマザーズアイズ』が今回も唯一の日本作品として国際コンペティションにノミネートされ、7月16日(日)映像ホールにてワールド・プレミアとなる上映が行われた。
壇上には串田監督をはじめキャスト3名が登場し、観客の質問に答えた。
チェロ奏者の母・仁美と娘・エリ。仁美が運転する車が事故を起こし、仁美は失明しエリは身体の自由を奪われる。仁美は謎めいた発明家が提供したカメラ内臓コンタクトレンズを装着することで視力を回復し、エリにVRゴーグルをつけることで仁美の視覚を共有させ、VRの中で二人は体験も共有していくのだが、その末に待っていたのは……。
登壇したキャストは、謎めいた発明家を演じた内田周作、看護師役の鯉沼トキ、仁美に発明家を紹介することになるサイエンスライターのミイケを演じた星耕介。鯉沼は『写真の女』にも登場、星は監督のCMにも出演したことがあるという“串田組”の二人である。
まずは串田監督から「今日がワールド・プレミアになります。私はお客さんに観てもらって映画は完成すると思っているので、今日が『マイマザーズアイズ』の完成した日になります。観ていただいて、ホラーと思った方もいらっしゃるでしょうし、ロマンスかなという方も、いやコメディじゃないかという方もいらっしゃるかと思います。とにかく、気に入っていただければ嬉しいです」と挨拶。
確かにジャンルに収まらないユニークな作品である。
ダブルヒロインとなる仁美とエリはチェリストという設定。自分もチェロを弾くという観客の方から「チェロでないと成り立たないところもあり、どういう発想でチェロと物語を結び付けたのか」という質問に串田監督が答えた。
「娘を抱きしめたいけれどできない母が、代わりに抱きしめるのがチェロなんです。だから形的にチェロでないといけない。チェロって人間の声に一番近い音色を出す楽器と言われています。とすると、主人公がしゃべらなくても音色で感情が表現できるのではないかと思ったんですね。世界で上映していくときも音色ならばどこの人にも理解してもらえるんじゃないかとも考えました。それと、私、映画の中で史上初ってのがどこか必要だと思っているんですが、チェロによる殺戮シーンは史上初だと思って。あ、チェロは危険な楽器ではないです(笑)」
テーマを活かすため、今回は作曲から入ったと話す串田監督。
「まず曲を作ってもらって、作品のイメージを固め、それからキャスティングして、撮影して、最後に音楽を入れて終わる、という方法です。作曲は伏見仁志さんにお願いして、チェロの曲でこんな感じのをって、2行くらいのメモを渡してですね、ここは怪しい感じとか、危険で色気のある感じで妖艶にと伝えて曲を作ってもらいました。チェロの演奏をしている西方正輝さんも伏見さんに紹介していただいたんです」
チェロの名曲からオリジナル曲まで、ストーリーと絡み合い、音楽的にも楽しめる作品になっている。
発明家役の内田さん曰く、「ストレンジな人しか出てこない」という登場人物について、「ぶっ飛んだ人ばかり出てきますがどうやって演じたんですか」という質問に登壇者たちが回答。
内田「ひたすら息子の佐敏がかわいい、大切にしたい、と思いながら演じました。あと、亡くなった奥さんですね。二人を大切にしたいという一念でこの人はああなったのだな、という感じで演じました」
鯉沼「私は看護師なので病院で働いていて、出てくる人の中では一番の常識人だなと思っているんですが(笑)。初号試写を観ていなかったので今日初めて完成したのを観たんですね。もっといろいろあったんですよ、最初もらった脚本には。入っていないシーンもあるし。ラストも違っていましたね。今日観たら、私、普通の人に見えるなって思いました」
星「監督からはミステリアスでいてほしいって言われたんです。それと、知性的でもあってほしいって。どれも自分に当てはまってない感じがする(笑)」
ここで鯉沼さんから「星さんの衣装はほとんど私物なんですよ」と突っ込み。ミイケはつねにサイケデリックなファッションを身にまとっている。
「衣装は確かに私物です。グラムロックが好きなので。監督にこれでどうでしょうと見せたら、それでいこうとなって。衣装が自前でいいなら自分にミイケという役を寄せていけばいいかなと思い、監督と相談しながら決めていきました」
串田「星さんの出てくるところは、サイケデリックですよね。殺されるところなんかとても楽しそう、顔に何色も絵の具垂らしてみたりして、60年代風(笑)。星さんとはCMで仕事していたのでオーディションなしで出てもらったんです。内田さんはオーディションですね。私は“俳優は顔だ!”ってまず考えているので、内田さんはルックもいい、それにこの作品は根底にコメディがあるってことを一番認識してくれた人だったんですよ」
「根底にコメディ」と監督はいうが、一つだけジャンルを選ぶとしたらホラーなのかドラマなのか迷うところ。「急にいろいろなことが起こって目を見張りましたが、どうやってシナリオをまとめていくんですか?」という質問にはこう答えた。
串田「リズムが不規則ですからね。飛ばすところは飛ばすけれど、じっくり見せるところは1秒ごとを見せる感じで作りますから。まず見せたいシーンを紙に書く。1枚1分のシーン。90分ならそれが90枚。それを床に並べていきます。で、入れ替え、並べ替えて構成を決めていきます」
影響を受けた監督や作品について聞かれると「デヴィッド・クローネンバーグは好きですね。土台にあるのかも。息を吸って吐くみたいに出てきます。今回は『戦慄の絆』、クローネンバーグの息子が監督の『ポゼッサー』の影響があるかもしれませんね」と、串田監督。
前作『写真の女』は世界各国の映画祭で40冠を達成、7カ国でのリリースも決まっている。今回も監督の眼は世界に向いている。
串田「今回の登場人物たちは名前があっても名字で呼ばれることはないんですよ。唯一、ミイケだけが名字で呼ばれたり名乗ったりします。世界を回るときに、この名前には反応してくれるかな、と思って(笑)」
ミイケ、すなわち三池崇史監督である。ホラー・コメディ・バイオレンスが混然一体となった三池監督作品のファンは世界中にいる。そんなファンに刺さるタイプの映画であることは確かだ。串田監督、なかなかにしたたかな戦略家なのかもしれない。
『マイマザーズアイズ』の次回上映は7月20日(木)11時から多目的ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月22日(土)10時から7月26日(水)23時まで。