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【デイリーニュース】Vol.12「短編②」『だんご』『松坂さん』『私を見て』『はなとこと』Q&A

監督や俳優、スタッフのなにかを変えた4作品

国内コンペティション短編部門「短編②」『だんご』田口智也監督、沖田修一、『松坂さん』畔柳太陽監督、佐竹大樹、『私を見て』山口心音監督、『はなとこと』田之上裕美監督、但馬智

 

国内コンペティション短編部門「短編②」プログラムの上映が15日16:40より映像ホールで行われた。上映作品は『だんご』『松坂さん』『私を見て』『はなとこと』の4本。上映後のQ&Aには各作品の監督と出演者が登壇した。

 

だんご』は、刑務所を出たばかりの兄と、いまだ見ぬ妹を探しに行こうとする弟のロードムービー。途中で財布もスマホも落としたというヒッチハイクの女性を乗せたことで、男2人の旅は楽しい観光旅行へと変わっていく。だんごを食べ、ボーリングや卓球に興じ、神社を詣でながら、妹が住むという秩父を目指すのだが……。

 

『高野豆腐店の春』(23)などに出演している俳優の田口智也が初監督と弟役を兼ねた短編映画。出演は『さかなのこ』(22)などの沖田修一監督。刑務所から出たばかりの兄・健を演ずる。そもそもの企画の成り立ちを田口監督が明かす。

 

「普段は俳優をしているのですが、数年前沖田さんのワークショップに参加し、自分でも映画を撮ってみたくなったのです。まず沖田さんが沖田さん自身を演じるという脚本を書き、沖田さんに見てもらいました。すぐに断られたのですが、それでも映画を作りたくて、沖田さんとワークショップに参加していた川瀬絵梨さんと3人で話し合いながら脚本を作っていきました。だから健は絶対沖田さんじゃなくちゃダメだったんです。沖田さんがしゃべって演技してアドリブ入れたりするのを見ていて不思議な感じがしましたが、楽しくてうれしかった。楽しい映画を作りたかったので、楽しさだけは忘れないようにしようと思っていました」

 

「最初のシーンを撮りに行ったとき、すごくハイテンションだったよね」と沖田。「緊張しているんだなあと思った。現場は“もうわかんないよ”と頭を抱える監督と、“こんなんじゃダメだよ”と言っている俳優がいる状態(笑)。僕は普段温厚なのですが、他人の現場に入ると、イライラするんだなと思いました。でも田口さんと映画を作りたい人が集まっているわけで、難しいことはなにもなく、楽しみました。イライラしつつ、ニヤニヤしながら。ただ『10kg太って』と言われたのは大変でした」と沖田は照れたように笑う。

 

「初監督をしたことで気持ちに変化があったか?」と問われた田口監督は、「俳優は現場に行って芝居して帰ればいいのですが、監督の撮影までの準備がこんなに大変なんだとわかりました。準備だけじゃなくて終わってからも大変。これからは感謝の気持ちを持って現場に挑みたいと思います」と答えた。

 

松坂さん』は、映画制作を学ぶ主人公のささやかな恋の物語。木嶋は課題のシナリオを描くことに苦戦していた。夜の高校でグラウンド整備に使うトンボを引く女性の話を書きたいのだが、どうも進まない。ある日バイト先に同年代の女性“松坂さん”が入ってくる。木嶋は松坂さんを主人公にしようとするのだが、2人とも人付き合いが苦手で話すことさえままならない。

 

登壇したのは畔柳太陽監督と木嶋役の佐竹大樹。2人は映画美学校の監督コース同期生だ。畔柳監督の美学校初等科修了制作作品『キックボード』はアテネ・フランセ文化センターでの上映作品にセレクションされた。

 

「佐竹君は監督コースの同期生ですがオーディションで選びました」と畔柳監督。『だんご』と同じく2人の監督が現場にいたわけだ。佐竹は初めての本格的演技だったという。

 

「人の映画にガッツリ出るのは初めてなので、台詞を覚えるのも大変でしたし、演技できるのか心配でした。監督はこだわりが強いタイプで、細かいところまで指示してくれました。それはありがたいことではあるんですが、僕の力不足もあってできているのかなという不安があります。まあ、最終的にいい映画になったので良かったかなと思っています。新鮮な体験でしたね」

 

「この作品を作ったことで変化はありましたか?」と聞かれた畔柳監督は、「夢中だったもので、パッとは出てきません。何年か後に見直したときに、ああ変化したんだなと思いたいですね」と答えた。

 

私を見て』は、女子校を舞台にしたホラー。親友同士の春花と奈々は、この学校には“呪いの絵”があるという噂を美術部で聞く。放課後、美術準備室の前を通りかかり、物音を耳にした2人は、偶然その絵を見つけてしまう。その日から奈々の様子がおかしくなり、2人の間に亀裂が入っていく……。

 

山口心音監督は大学で石井岳龍監督と武田峻彦監督に師事。『私を見て』は、授業の実習作品として制作した。思春期の少女たちの友情、嫉妬や憧れなどの繊細な感情を、映像で掬いあげ、もう一方で丁寧に設計された音響や編集で効果的にホラーとして成立させていく。春花と奈々、絵の中の少女という3人の女優が魅力的だ。

 

キャスティングについての質問に、山口監督は「春花役の澤井茜さんは先輩にあたります。奈々役の髙橋耀さんは同期生で一緒に脚本も書きました。原作も髙橋さんです。絵の中の少女役の宮本黎花さんは耀さんの友だちのお知り合いとしてつながってオファーしました」と明かす。

 

本作の制作がもたらした変化は、「授業で、初めて監督をさせていただくことになり、それまで頭では理解していた監督の役割を、改めて実感することができました。制作する過程で“あなたはどういうものが見たいのか? これはいいのか悪いのか?”など、すごく聞かれるんです。そのたびに自分の心との対話というか、自分の心はどう思っているのかということに寄り添うきっかけになりました。それからは日常生活においても、映画制作においても、優先順位をつけて考えるようになりました」と答えた。

 

「もしこのキャストとスタッフのまま、追加予算が500万円あるとしたらどう使いたいか?」という質問に、他の監督が言いよどむなか、山口監督は即答。「ビハインド・ストーリーを作ってみたいです」とのこと。

 

はなとこと』は、幼馴染みの“華と琴”、2人の少女の物語。しっかり者の華の後を追いかけるようにして生きてきた琴。高校3年になり、ふたりは同じ大学に進学したいと考えているところに、圭一という少年が加わる。3人は親しくなり、やがて華は圭一に魅かれていく。琴がそれを知った直後、思いがけない事件が起きる。

 

田之上裕美監督と琴役を演じた但馬智が登壇。田之上監督は大学院在学中に通信社でインターンを経験し、その後ニュースサイトに勤務。現在はフリーとして海外メディアの映像取材を手掛ける。その傍ら、映画美学校にて劇映画制作を学び、初等科終了作品『裸足』は映画祭で高く評価された。

 

田之上監督は会場に訪れたスタッフを壇上から見つけ、「みんなが来てくれて心強いです。今日大きなスクリーンで見ていて、自分だけの作品じゃなくなっていることに気がつきました。この作品をみんなで作ることができたのがうれしいです」と挨拶。「自分のなかだけで考えていたものが、キャストに演じてもらうことで人間になり、華、琴、ナオコという人格を持ち、スタッフと脚本を考え、どう撮るか考えていくなかで、だんだん外に開いていった。未熟な部分も多かったので、もっと修行しようと思いました」

 

「追加で500 万円あったら?」の質問には、「スタッフ、キャストやお世話になった方に負担かけているので分けて返したいです。500万よりもっとあれば長編にしたいですね」と答えた。

 

琴を演じた但馬智は、映画初出演。オーディションで選ばれた。「初めての映画で右も左もわからないところで現場に入れてもらって、2週間の撮影中は、合宿みたいに一軒の家でみんな寝泊まりしながら撮っていました。人の影響を受けながら、一瞬一瞬、今までやったことのない経験をしていると感じました。個性派ぞろいだったので意見もたくさん出て、“ああ、もうわかんないっ”ということになったりも。私は初めてなので華役の井筒しまちゃんに教えてもらいながら撮影していました。『カット割りっていうのはね』とか、『ここから切り返しで撮るんだよ』とか(笑)。大変だったのは、トイレ。海の撮影時のトイレが遠くて大変だったんです(笑)」

 

短編②」の次回上映は7月18日(木)14時から多目的ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月20日(土)10時から7月24日(水)23時まで。

 

取材・構成/まつかわゆま 撮影/関口裕子


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