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【デイリーニュース】Vol.03『マスターゲーム』バルナバーシュ・トート監督 Q&A

ダークで複雑な作品なのに微笑みたい場面もある伏線回収映画!?

バルナバーシュ・トート監督『マスターゲーム

 

映画祭2日目の7月14日(日)、コンペティション部門の作品上映がスタートした。映像ホールでの最初の上映を飾ったのはバルナバーシュ・トート監督のハンガリー映画『マスターゲーム』。上映後には監督を壇上に招いてQ&Aセッションが行われた。

 

1956年、ハンガリー動乱下のブダペスト。恋人同士のマールタとイシュトヴァンは、町なかをソ連軍の追跡から逃げまどい、やっとのことで西側へ向かう最後の亡命列車に飛び乗る。だがふたりが手にしたのは一人分の切符。彼らを見逃してもらうために、列車に乗り合わせた神父がチェスのゲームに挑む。ゲームが進行する一方で、次第に違和感を募らせていくイシュトヴァン。「この列車は何かがおかしい……」。

 

シュテファン・ツヴァイクの小説「チェスの話」をベースにしているが、舞台をドイツからハンガリーに、時代を1941年から1956年に移しているだけでなく、まったく別の物語が大胆に付け加えられている。トート監督は原作と本作の関係をこう説明する。

 

「原作の物語は刑務所の中で完結していて、列車も出てきません。列車を登場させるのは共同脚本家のアイデアです。脚本とツヴァイクの作品を何度も読み、こういった列車や飛行機で違う世界に行く物語にたくさん触れましたし、映画でもよく描かれる題材だと思います」

 

1956年の動乱を舞台にしてはいるが、ロシア軍が町に侵攻してくるという物語はどうしても現在起こっているロシアによるウクライナ侵攻を連想させる。

 

「映画の企画も、撮影を行ったのもウクライナ侵攻より前でした。映画の最後にロシア軍の戦車が2台通るシーンがありますが、ニュースを見るとそれと同じような映像が繰り返し流れていて、とても悲しい気持ちになります。(ロシア軍による侵攻が)ヨーロッパで起きるなんて、誰も想像していなかったことが、今現実に起こっているのです」

 

動乱に翻弄される人々を描いた社会派ドラマだと思って観ていると、物語は意外な方向に展開していく。「彼らを乗せた列車は一体どこに向かうのか?」と問われたトート監督は、「この列車が果たして地獄に行くのか、国境のようなところで天国と地獄に仕分けされるのか、走り続けるのか、行き先についてはいろいろな考え方ができると思います」

 

ハンガリーでは、過去の出来事を題材にした映画が多く作られているとトート監督は言う。

 

「現在の社会問題を描いたり、今の政治を批判するような作品は、国からの資金援助を受けにくいので、すでに評価の定まった歴史を描く映画が多く作られる傾向はあります。ただし検閲があるわけではなく、どのような作品を製作・配給することにもいまのところ制限はありません。半分、自由がある状況というか。ただ私としては、映画の存在意義には、社会問題を描いたり、風刺や批判をすることなどもあると思っています」

 

周囲の人にブランクッキーを勧める婦人がやんわり断られるシーンについての質問には、“グッド・クエスチョン”とばかりに相好を崩したトート監督。

 

「私はユーモアも笑える映画も大好きなのに、これはダークで複雑な映画なので、それを入れることはほぼ不可能でした。ご婦人が喜ばれないブランクッキーをふるまおうとする場面は、その役割を担う数少ないシーン。次回はもう少し笑える作品を作りたい」と種明かしをした。

 

最後に「私の素晴らしいコラボレーターで協力者、撮影現場にも脚本を書くときも編集するときも一緒にいてくれて、あらゆる映画祭にも一緒に来てくれて、また私の妻でもあるリンダを紹介します」と満面の笑顔で夫人を紹介。また、「映画に出てくる列車は8両編成。8は再生と復活を表す数字で、チェス盤の8段目も駒を昇格させることができるトランスフォーメーション・ラインであるということもお話しておきます」と付け加えた。

 

マスターゲーム』の次回上映は7月17日(水)13時30分から多目的ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月20日(土)10時から7月24日(水)23時まで。

 

取材・構成:金田裕美子 撮影:関口裕子


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