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【デイリーニュース】Vol.04『朝の火』広田智大監督、山本圭将、福本剛士、笠島智 Q&A
5年の歳月を経て完成、恩師・青山真治監督の言葉が背中を押した執念の火
『朝の火』(左から)笠島智、広田智大監督、山本圭将、福本剛士
国内コンペティション長編部門出品の『朝の火』は、平成が終わり、元号が令和に変わる社会を背景に、時代の狭間に取り残され、助けを乞うこともできず、徐々に狂気に蝕まれていく人々の苦悩とあがきを描いた作品。本映画祭での上映がワールドプレミアとなる。
ごみ焼却施設で働く名を持たない主人公。ゴミ山に潜り込む仕事仲間。部下をいじめ抜く上司。家族を失った女性。ラジオから元号が平成から令和に変わったことが告げられる。空虚な日々を過ごす主人公の周囲が、少しずつ狂いだす。彼らの行き着く先は……。広田監督は“役目や意味を失った物体の集合体と生身の人間が入り混じるような空間”として舞台をごみ焼却施設に設定するなど、緻密な隠喩を積み重ねて物語を構築した。
上映後のQ&Aでは、広田智大監督のほか、出演した山本圭将、福本剛士、笠島智が登壇。まず、広田監督から本作製作のきっかけとなった出来事が語られた。
「多摩美術大学の映像演劇学科で青山真治監督に映画を教えてもらっていたんですが、大学卒業後、ほとんど映画も撮れずにだらだらしていました。でも、死ぬ前に自分の信用できるスタッフと役者で1本長編を撮ろう、それを青山監督に見てもらおうと思い動き始めました。そのため、大衆に向けてというよりも、自分のなかで大切だった人に届ける目的で作り始めたんです」
実は本作は2019年に撮影を終えており、完成までに5年の歳月がかかっている。なぜそんなにも時間がかかったのだろうか。広田監督はその苦労を打ち明けた。
「編集がしんどかったですね。編集する人は映画を何百回も、頭がおかしくなるくらい見るんですが、どのシーンを見ても笑っちゃうぐらい編集で行き詰まっていました。それを、時間が解決してくれたというか、客観的に見られるようになるまでに5年もかかってしまいました」
長期間にわたる製作期間がゆえ、本当に映画を作っているのかどうか度々不安に襲われたという広田監督。そんな監督の背中を押してくれたのは、2022年に惜しくも亡くなった青山監督のお別れ会での出来事だった。
「青山監督のお別れ会で、奥さんのとよた真帆さんが、作り続けることで青山が報われるということを仰っていました。5年も編集を続けていると自信がなくなってしまうのですが、この言葉を聞いて立ち上がることができました」
直接的な表現やセリフを廃し、隠喩で紡いでいく映画だけに難解さが際立つ本作。来場者からも、どのように解釈すればいいのか、何を訴えたかったのかという質問が広田監督に寄せられた。
「映画以上に僕の言葉で語れることは少ないと思います。平成から令和という時代の変わり目で、そこに生きている自分がいて。自分というものが何で作られているのかを考えたときに、そのときの時代性や空気感というか、平成というものを今撮ることで、数十年後とかその先に見たときに答えが分かるというか……。僕もすべてをはっきりと理解して走り出したわけではなく、自分のなかでもやもやしたものを吐き出したい、その吐き出すタイミングが時代の変わるタイミングだったということです」
出演者からも広田監督の作品への強い想いを感じ取った声が上がった。笠島は「広田さん自身の苦しみというか、どうにもならない気持ちがこの作品には詰まっていると思います。それを言葉にするなら“弔い”というか、そういう感情に溢れていると感じました」と表現。高校、大学と広田監督と同級生だった山本も「キャメラマンの鈴木余位さんと撮影中に『これってひろっちゃん(広田監督)だよね』という話をしたことを思い出しました」と、監督自身が作品に投影されていることを指摘した。
本作を紐解こうとする質疑応答が続くなか、広田監督の撮影時のこだわりについて、福本が冗談交じりに明かす場面も。「監督から(撮影中は)まばたきをしないでくれとの指示がありました。私は普段は眼鏡をかけているんですが、(撮影時は)コンタクトだったので乾いて大変だなと」。この話を受けて笠島も「まばたきしてないと気づいた方いるんですかね? 出演者みんな必死でしたよね(笑)」とおどけて返し、場をなごませた。
『朝の火』の次回上映は7月17日(水)17時30分から映像ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月20日(土)10時から7月24日(水)23時まで。
取材・構成・撮影:河西隆之