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【デイリーニュース】Vol.10「短編①」『相談』『Loudness』『立てば転ぶ』『チューリップちゃん』Q&A

それぞれの思いを詰め込んだ多彩なジャンルの4作品

左から張曜元監督、徐梅プロデューサー、地曵豪監督、脇坂昌宏、細井じゅん監督、日高七海、渡辺咲樹監督

 

国内コンペティション短編部門は、15分以上60分未満の作品が対象。今年は186本もの応募作から8作品が選出され、「短編①」「短編②」の2プログラムに分けて上映された。「短編①」は、『相談』『Loudness』『立てば転ぶ』『チューリップちゃん』の4本。上映後のQ&Aには各作品の監督のほか、プロデューサーや出演者が登壇した。

 

相談』は、年老いた中国残留孤児の男性の緊張感あふれるドラマ。解雇された工場で口論となり、元上司に暴力を振るわれたと警察に訴え出るが、次第に供述とは違う事実や、呼び出した弁護士との意外な関係が明らかになってくる。

 

中国出身の張曜元監督は文部科学省国費留学生として来日し、現在東京藝術大学大学院映像研究科で学んでいる。Q&Aには張監督とプロデューサーの徐梅が登壇した。監督は残留孤児を主人公に設定した経緯についてこう説明した。

 

「残留孤児を主人公にしたかったわけではなく、ドキュメンタリーを撮っているときに日本に住んでいる中国東北地方出身の技能実習生やアイデンティティが複雑な残留孤児に興味を持ちました。特に2人の親子がすごく気になったんです。会話を聞いているときには全然見分けられなかったのですが、2人は親子でした。親子の関係はあんなに冷たいものじゃないと思って、そこを批判したかった。社会の発展とともに人間がこんなふうに変化してしまったということに不満があって、こういう作品を撮ろうと思いました」

 

Loudness』は、元禄時代、長岡藩の寒村でつつましく暮らす夫婦のもとに平和を脅かす者たちがやってくる、セリフを排除した時代劇。のどかで美しい村の風景のなか、それと対比するような迫力の殺陣が展開する。これまで俳優として活躍し、これが初監督作となった地曵豪と、主演の脇坂昌宏が登壇した。

 

地曵監督は、「新潟県の十日町市で撮影させていただきました。本当は物語のバックグラウンド・ストーリーを細かく作っていたんです。彼らが逃げて山奥で生活している場所としておかしくないところをリサーチして、その都度、脇坂さんに時代考証を確認しました」と話す。

 

脇坂はもともと殺陣や時代劇の研究者で、本作では美しい立ち回りを披露する。「時代劇を見ていただきたいという思いのもと、監督と作りました。最近少なくなっている時代劇の立ち回りをできるだけたくさんの方に見ていただきたいと思います」。

 

立てば転ぶ』は、スーパーでバイトをしている3人がひたすら無駄話を続けているようで実は微妙な関係性に揺れ動いているというコメディ・ドラマ。劇団「コンプソンズ」に所属し、俳優として舞台や映像作品に出演している細井じゅんの初監督作だ。

 

上映後のQ&Aには、細井監督と監督演じる売れない役者・石川に延々と突飛な話を無茶振りし続ける大学生の安達役、日高七海が登壇。あのマシンガンのようなセリフの応酬は脚本に書かれたものなのかアドリブも含まれているのか、誰もが気になるところ。

 

脚本も手掛けた細井監督は、「セリフは一応自分で考えたんですけど、普段は演劇をやっているのでどうしても演劇の台本のようになって、ト書きがあまりない、会話だけで30ページくらい作ってしまいました。日高さんが普段言っていそうなことを書きました」
それに対して日高は、「いや、全然私はあんなこと言わないです(笑)。でも当て書きということは最初から言われていて、本当にアドリブとかなくて、全部セリフを頑張って覚えてやりました。細井さんの脚本が面白いだけです」

 

チューリップちゃん』は、短編部門唯一のアニメーション作品。小学生のときに将来の夢は「還暦を孫にお祝いしてもらうこと」と教室で発表したチューリップちゃん。ある日大人になった彼女の前に「未来から来たあなたの子どもです」という少女があらわれる……。

 

大学の卒業制作として本作を制作したという渡辺咲樹監督は、脚本、作画、エンディング曲の作詞・作曲まで手掛けている。あの脱力した感じのエンディング・テーマはチューリップちゃん役の佐藤ハイジが歌っているが、それについて監督は、「佐藤ハイジさんはもともと友だちで、一緒にカラオケに行ったときにすごく素敵だったというきっかけもあったんです。けど、絶対うまく歌わないでねとお願いしてああいう感じになりました」と話す。

 

客席から『立てば転ぶ』と『チューリップちゃん』は「コミュニケーションのずれ」という共通のテーマを持っているのではという意見が出され、お互いの作品の感想を聞かれた細井・渡辺両監督。細井監督は、「面白かったですね。絵をひとりで描いていることもあって唯一無二の世界観で。ほんわかするだけじゃなく個人的な悩みとか、かなりぐっとくるものがありました」。もともと細井監督の劇団の公演に、深夜バスに乗って見に行くくらいのファンだったという渡辺監督は、「すっごい笑いました。でも、笑いをとりたい気持ちはあるけどそれが最終ゴールじゃないみたいな感じが、ちょっと似ているのかなと思いました」と話した。

 

短編①」の次回上映は7月18日(木)10時30分から多目的ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月20日(土)10時から7月24日(水)23時まで。


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