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【デイリーニュース】Vol.13『私たちのストライキ』ネシム・チカムイ監督 Q&A

監督が見せたかった、闘いは必ず報われるということ

ネシム・チカムイ監督『私たちのストライキ

 

国際コンペティション長編部門の『私たちのストライキ』は、働く人誰もが共感できるフランス発の社会派コメディだ。上映後、ネシム・チカムイ監督がQ&Aに登場した。

 

フランスの高級ホテル客室係が、下請け業者とホテルを相手にストライキを繰り広げるなか、新たに客室係のチームに加わった20歳のエヴァ。異なる年齢、背景を持つメンバーとともに働きながら、自身も劣悪な労働環境に直面する。それでも、彼女たちは労働組織と連帯を続け、あっと驚く運動を繰り広げていく……。実話をもとにした深刻なテーマを扱いながら、それを吹き飛ばす明るさがある。ラストは痛快、感動的だ。

 

チカムイ監督は脚本家として活躍し、39歳のとき、 特別支援学校の子どもたちを描いた『PLACÉS』で監督デビューし、本作は2作目になる。日本が大好きと語り、「私の作品がこの映画祭で上映されて、みなさんといられることがとてもうれしいです」と笑みを浮かべた。

 

映像業界の前は、 特別支援学校の教員を務めていたそうで、「社会問題をテーマにすることを大切にしてきました。今回の作品のベースも実話。実際には22カ月間ストライキを敢行した女性たちがいて、その人たちをスターのように輝かせたいと思いました。フランス映画では、社会的なテーマをシリアスに描くことも多いと思いますが、私は深刻だからこそ、コメディタッチで描きたかった。少数のシネフィルではなく、多くの人に届く映画にしたかった」と語る。

 

 本作は有色人種の移民、女性など社会的な弱者にエールを送る内容になっている。

 

「ヨーロッパでは右傾化が進み、閉鎖的な社会になっていますが、それは、とても恐ろしいことです。とりわけ、経済危機は移民のせいだといわれますが、実態は違っています。ヨーロッパは高齢化社会になっていて、移民の力がなければ成り立たない。映画のなかでは、毎年滞在許可証を更新しなければならない女性を登場させたのも、現実的な問題があるからです。私は、差別主義者を否定し、リベラルな人たちが社会を変えていく姿を映画で示したかった」と力を込めた。

 

劇中に登場するホテルは、4カ所でロケし、ひとつのホテルのように見せている。ストライキを行うホテル前の外観は銀行、スイートルームは実際の高級ホテル、ロビーは建設中のホテル、従業員用通路は、料理学校を使ったと明かす。

 

「フランスでは公的機関が映画製作を支援しているが、この映画はどのような形で資金を集めたのか」と質問されると、「国立映画センターなどはインディペンデント系のアート作品には支援していますが、私のような作品には支援はありません。だから、デビュー作でも苦労しましたし、この作品でも当初360万ユーロの予算を組みましたが、集まらず280万ユーロで作りました。Netflixが支援してくれたことが大きかった。配信プラットフォームには助けられました」と答えていた。

 

ラストには希望を込められているが、「実際のストライキはすべてが満額回答だったわけではありません。ただ、私は映画監督として闘いは必ず報われるということを映画で見せたかった」ときっぱり。質問は最後まで途切れることはなく、映画、そして、一つ一つの質問に丁寧に答える監督に惜しみない賞賛の拍手が送られた。

 

私たちのストライキ』の次回上映は7月18日(木)13時30分から映像ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている(本作は作品権利上の都合により、オンラインでの視聴はございません)。

 

取材・構成・撮影:平辻哲也


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