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【デイリーニュース】Vol.15『冬支度』伊藤優気監督、石川啓介、仲野修太朗、廖あずみ Q&A

雄大な自然と都会の孤独な日常の対比で若者の挫折と別れを描く

冬支度』(左から)廖あずみ、仲野修太朗、伊藤優気監督、石川啓介

 

国内コンペティション長編部門の『冬支度』は、俳優を志して上京し、独学で脚本を学んだ23歳の新人のデビュー作だ。本映画祭での上映がワールド・プレミア。上映後、伊藤優気監督、出演の石川啓介、仲野修太朗、廖あずみがQ&Aに登場した。

 

長野の田舎町、建(石川)と明(仲野)の親友同士の2人はそれぞれ農業、印刷業に励んでいる。祖父の死をきっかけに、形見のカメラで写真を始め、次第にのめり込んでいく建、その背中を押す明。やがて、2人はそれぞれの道を進む……。雄大な自然と都会の孤独な日常を対比させ、若者の挫折と別れを描く。物語はシンプルで、描写は余白が多く、観客の想像力に委ねている。

 

伊藤監督は長野県伊那市出身の23歳。高3のときに樹木希林の書籍に感銘を受け、俳優を志して上京。俳優養成所に通いながら、制作にも関わりたいと独学で脚本を学んだ。好きな監督にケン・ローチ、アッバス・キアロスタミ、小津安二郎を挙げる。

 

本作は、23年の国内コンペティション長編部門出品作『十年とちょっと+1日』に主演した仲野が、「一緒に映画を撮らないか」と伊藤に声をかけたところからスタート。伊藤が伊那市でロケをすることを決め、脚本を作った。撮影は2週間弱、スタッフは6人で、すべて知り合いのツテだという。

 

伊藤監督は「最初は脚本だけだったんですが、『監督もやらないか』とのお誘いを受けて、偶然やらせていただくことになりました。親族のコネを使いまくって(笑)、撮影場所を決めていき、その中で紡げるストーリーを考えていきました。現場はトラブルの連続でしたが、映画をいっぱい見てきて、映画への熱もあったので、乗り越えられたと思っています」と振り返った。

 

撮影の前には公園で入念に打ち合わせ&リハーサルを行ったそうで、主演の石川は「話し合いをし、伊藤君の世界観、描きたいものが見えてきた気がします」。企画・プロデュースにも名前を連ねる仲野は「2年連続でここに戻ってこられて本当にうれしいです。現場のスタッフは少人数だったので、しゃべりやすく、その中で馴染んでいきました」。上京してきた建をサポートするギャラリー関係者役の廖は「この作品に携われたことが本当に光栄です。伊藤監督の映画への愛情と情熱がたくさん詰まった作品だと思います」と話す。

 

劇中には説明的なシーンやセリフは一切ないが、観客からは「力強く胸に迫るものがあった」「説明がなくとも思いが伝わってきた」との感想多数。伊藤監督は「説明的なシーンをなくし、セリフの音声を消すことで、見ている方が想像してくれると考えていました。観客のみなさんから温かいコメントをいただけた。信頼できる仲間とこうして1本撮れたことがうれしい。監督はまた機会があればやってみたい」と意欲を見せた。

 

冬支度』の次回上映は7月20日(土)10時30分から映像ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月20日(土)10時から7月24日(水)23時まで。

 

取材・構成・撮影:平辻哲也


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