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【デイリーニュース】Vol.17『折にふれて』村田陽奈監督、浅野楓季、細井 春平 Q&A

9人の力を結集させて作った卒業制作「ありえないと思うことは現実にも起きる」

左から浅野楓季、村田陽奈監督、細井春平『折にふれて

 

国内コンペティション長編部門『折にふれて』は、京都芸術大学映画学科の卒業制作作品として9人の学生が作り上げた作品。監督・脚本を担当したのは、2002年生まれの村田陽菜。1、2年時に制作した短編『水魚の交わり』や、撮影として参加した『あじのり』は各地の映画祭で賞を獲得し、上映されるなど好評価を得ている。村田の初長編となる本作は今回の上映がワールドプレミア。上映後、村田監督は録音・音響効果、VFXを担当した浅野楓季、ヒロインが送迎のボランティアをしている少年・空良くんを演じた細井春平と共に登壇し、Q&Aに臨んだ。

 

短大を卒業し20歳を迎えるふみ(本田朝季子)は、就職のため家を出て、間もなく一人暮らしをする予定だ。母はすでに亡く、家にはこまごまとふみの世話を焼くおせっかいな父(水上竜士)と、10年間引きこもり“居るのにいないことになっている”兄のむっちゃん(豊山紗希)がいる。そんな息苦しいまでに平穏な日常をおくるふみは、日の沈まない町に迷い込み、かつて兄と笑いあった夏の日々と邂逅する。

 

村田監督は、日常部分を35mmスタンダード、むっちゃんと過ごす日の沈まない町の部分をワイドサイズと、スクリーンサイズを切り替えるというファンタスティックな表現で、たくましく見えて悩み深く繊細なふみと、彼女が実家を出るまでの日々をつづる。

 

上映が行われた16日は雨。「雨の中、お越しいただきありがとうございます。こんな大きなスクリーンで上映していただき、うれしいです」とまず村田監督が口火を切る。「ぜひご意見を聞かせてください」と浅野。映画では一言もしゃべっていない細井は、「この映画は僕が俳優になろうかどうしようかと悩んでいたのを決めてくれた作品です」と話した。

 

説明的なセリフを排除した作品。なかには解釈に戸惑うところもある。例えば“兄”と言われながら、“日の沈まない町”でふみの前に現れるむっちゃんはどう見ても女性なのである。観客の質問もそこから始まった。

 

「むっちゃんを演じてくれた豊山紗希さんは大学一年のときから素敵だなと思っていた人です。映画の、ふみの世界観を理解してくれて出演してもらえてよかったなと思います。むっちゃんをなぜ豊山さんに演じてもらいたかったかというと、2人は兄と妹なんですが、日の沈まない町では、性別や体格、年齢を取っ払ってフラットな関係でいてほしかったので」と村田監督。『折にふれて』の英語タイトルは『Midnight Sun(白夜)』。日の沈まない町を意味する英語タイトルのほうが、邦題より先にできたと監督はいう。

 

「この作品は卒業制作なので、みんなで企画を立てるところから始めました。いろいろな要素が集まってきましたが、骨格になったのは淀川にクジラが出現したという出来事でした。現実にもありえないと思うことが起きる、というところから“面白いことの起こる町”の話にしようと考え、クジラや刺繡というモチーフを付け加えていきました。

 

映像と共に世界を作り上げるのが緻密な音響設計。音響効果を映画言語のひとつとして大切に使いこなす。

 

むっちゃんは居るけど、見る人にはあったことのない存在なのでどう表現しようかと考えました。企画の最初のころから相談していたんですが、音で、例えばノックの音でコミュニケーションをとるようにしたんです。演出的にも音は大事で、“語ってほしくて”現実音も足したり引いたりしました。それで、前の作品でも一緒にやった浅野楓季に録音・音響効果を頼むことにしました」

 

最初のシークエンスから、家の中の生活音、料理する音やラジオの声など、気になる音の使い方。クライマックスのむっちゃんとの扉越しのノック音によるコミュニケーションまで音が演技をしている。音を担当した浅野がうれしそうに語る。

 

「基本的に遊び心で作っていきました。現実にはないような音付けをしてみたりして。キャラクターそれぞれに意味のある音付けをしたかったんですよね」

 

音でコミュニケーションするという点で、ふみは送迎ガイドをしている、しゃべらない空良の行動がポイントになっている。空良が布団をたたく音、公園で拾った土石をぶつけ合わせる音は言葉を発しない空良のコミュニケーションなのだ。

 

「実際に知的障害のある方と過ごしたり、ガイドヘルパーの人に話を聞いたり、一緒に行動したりしました。それでやっと空良のことがつかめたかなと感じました」と細井は語る。村田監督は「空良とむっちゃんをかさねあわせた」と語る。「2人とも自分のペースで生きているんですよね。ふみは家のなかのむっちゃんには何もできないけれど、空良になら何かしてあげられると思ってガイドヘルパーを始めたのでしょう。空良役を細井にやってもらったのは、目が印象的だったし、物語を深く考えてくれる人だったから。自分のペースで存在している空良を細井がやったらどうなるかと思って依頼しました。この映画は9人で作っていきました。みんなお金も力もないけれど、それぞれできること、得意なことがある。そこを互いに信頼しながら作っていきました」

 

邦題の『折にふれて』は後から考えたタイトルだというが、「観客の皆さんに折にふれて何かを思い出したり、この作品について思い出してもらえたらと思ってつけた」のだそう。さりげない描写にいろいろな感情が込められた、みずみずしい作品である。

 

折にふれて』の次回上映は7月20日(土)13時30分から映像ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月20日(土)10時から7月24日(水)23時まで。

 

取材・構成・撮影:まつかわゆま


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