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【デイリーニュース】Vol.19 特集「商業映画監督への道」『止められるか、俺たちを』白石和彌監督 トークイベント

映画を作りたい。その起点になるのは衝動。その欲求に素直になれば

国際コンペティション部門審査委員長で『止められるか、俺たちを』の白石和彌監督

 

特集「商業映画監督への道」で、国際コンペティション部門の審査委員長を務める白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』(2018)が多目的ホールで上映された。

 

白石監督の師匠である若松孝二監督が設立した若松プロダクションが映画作りに奔走していた1969~71年を、実際に助監督をしていた吉積めぐみの視点で描く群像劇。「若松プロに恩返しがしたい」と自ら同プロに持ち込んだ企画で、2012年の若松監督の死去後、同プロの映画製作再始動の第1作となった。

 

めぐみが劇中で「映画監督にはなりたいけれど、何を撮りたいかが分からない」と話すシーンがある。白石監督も、1995年頃から若松プロに出入りするように電話番などをしていたが同様の思いを抱えていたという。その後、多くの作品で助監督として付き「自分で言うのもなんですが、優秀な助監督だったんです。でも、このままやっていても先は見えない。自分の作品を作りたいから“助監督を辞める”宣言をしたんです」と振り返った。

 

デビュー作の『ロスト・イン・パラダイス・トーキョー』が2009年の本映画祭でSKIPシティアワードを受賞。同作のスタッフは、助監督時代に知り合った人ばかりで「財産です。皆『白石がやるなら手伝うよ』と言ってくれた。いつの間に映画を作るコツも身についていた」と明かした。

 

「助監督は基本やらないと言っていたので、次のチャンスを探そうと思い人生で一番我慢する日々だった」という雌伏の数年を経て、2013年『凶悪』で注目され、新藤兼人賞金賞など数多くの映画賞に輝いた。いまや日本を代表する監督の一人となったが、『止められるか、俺たちを』でも描いた若松監督の教えも踏まえた上で、「映画を作りたいと言ったときに何が起点となるかといえば、それは衝動。その欲求に素直になれば力になっていくと思う」と持論を展開した。

 

客席には本映画祭に作品を出品した監督も多く来場。商業映画監督として続けるための秘けつを問われると、「仕事として飯を食っていくためには継続性と、漠然とではなくどう作るのかという自己プロデュースが必要。加えて、計算はできないけれど、いろいろな人にどう訴えていけるか。自分の作品を見たあるプロデューサーに『俺と組んだら、もっと面白いものが作れる』と言われることもある。だから僕も『凶悪』以降は、ある意味余白を残すようにしている」と語った。

 

作品の評価に対する心の持ちようを聞かれると、「いい意見はそうかと思えばいいし、ネガティブなものに対しては信頼できるスタッフや仲間とディスカッションをして、確かにそうだと思えるものは自分の実にすればいい。独りで抱える必要はない」と指南。

 

女性として映画を続けていけるか心配という監督には、「業界は確実に変わってきている。結婚して子どもを産んで現場に戻って来るスタッフも多くいる。映画に携わる人が少なくなって、撮影所に託児所を設ける提案もしているし、業界を挙げての問題として認識されている。安心してとまでは言えないが、ぜひ映画を作り続けてほしい」と諭した。

 

特集「商業映画監督への道」は、7月19日(金)17時30分から映像ホールで『ウルトラミラクルラブストーリー』が上映され、横浜聡子監督をゲストにトークイベントが予定されている。

 

取材・構成・撮影:鈴木元


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