デイリーニュース
武田真悟監督Q&A
「息子や娘、両親が個人として認め合うことで、家族としてやっていける」
(左から)武田真悟監督、笠松環、金澤滋隆、鈴木耕司
児童養護施設で育った高校生・康介の元に、ある日突然父親が現れ一緒に暮らそうと言い出す。しかし父を覚えていない康介は彼に心を開くことができない。同じ学校に通う美香は、両親の期待や束縛に反発し、援助交際をしている。互いに通じ合うものを感じた2人は、家を抜け出し俊介の母親に会いに行く――。『チルドレン』は、家族の関係、友情、恋愛、いじめ、離婚、宗教など、さまざまなテーマを織り込んだドラマ。
武田真悟監督は、立教大学の卒業制作として本作を撮り上げた。シナリオ執筆段階では22歳、撮影段階では23歳という若さ。「卒業制作のシナリオは3年生で書かなければいけなかったんですが、なかなかできず、4月にやっと第1稿、それからいろんな人の助けを借りて5稿くらいまで書きました」。
美香の父親が牧師という設定であり、教会が重要な舞台のひとつとなっている。
「僕の父親も牧師なんですが、ああいう形で教会に行かないという意思表明をする、そしてそれを周りが認めるというのは凄い進歩なんです。家族であっても息子や娘、母親、父親が個人として認め合うことで、家族としてやっていけるという思いを込めました。康介の方も家族はバラバラですけど、あそこで出会って一緒に過ごしたことで、康介は自分には家族があったと感じていると思います。『チルドレン』というシンプルなタイトルは、この子供たちだけでなく、大人も指しています。キリスト教では“私たちはみな神の子供である”という言い方をしますが、どんな人であっても、生きているものはすべて肯定されているという意味でつけました」。
Q&Aには、子供たちとの関係をうまく築けない親たちを演じた3人の俳優が参加、それぞれの作品への思いと、出演した感想を語った。
牧師である美香の父親を鈴木耕司さんは、
「毎回、なにか新しい発見のある映画です。役作りは普通、いろいろ調べて作り込んでいくことが多いんですが、監督の方からあまり牧師というものを強調しないように指示を受けたので、一人の父親としてアプローチしました」
突然現れる康介の父親を演じた金澤滋隆さんは、
「家庭内暴力やアル中の問題を抱えるこの父親は、自分とはかけ離れた人なんです。自分との接点を見つけられないまま、監督を信頼してその瞬間瞬間を純粋に演じていたら、完成した映画ではきちんと人物像が出来上がっていて、映画って面白いなと思いました」。
康介の訪問に驚く母親を演じた笠松環さんは、
「この映画は、見直す度に“そうだったのか…”と理解できる点と、“なぜなんだろう?”と疑問に感じる点が増えます。それを探っていくのも楽しいと思います」。
『チルドレン』は、14日(金)11:00から多目的ホールでも上映される。
『短編(3)』Q&A
『TSUYAKO』『墨田区京島3丁目』『此の岸のこと』
『短編(3)』で上映されたのは『TSUYAKO』、『墨田区京島3丁目』、『此の岸のこと』の3作品。上映後のQ&Aでは、監督や出演者が自身の作品について語った。
(左から)藤真美穂、勝俣幸子
1本目の『TSUYAKO』の舞台は、戦後復興期の町工場。2人の幼い娘の母であるツヤ子のもとに、良恵が訪ねてくる。2人はかつて恋人同士だった。一緒に東京へ行こうという良恵の言葉に、ツヤ子の心は激しく揺れる……。南カリフォルニア大学大学院で映画製作を学んだ宮崎光代監督の卒業製作として作られた作品。この日は主演女優の勝俣幸子さん、藤真美穂さんがステージに登場した。
藤真「オーディションはかなり長くかかったのですが、ハリウッド式というものを実感しましたね。まず豆になりなさい、そして宇宙になります、というメソッドから始まりました。教わったことはどの役にもあてはめられるし、勉強になりました」。
勝俣「撮影前、リハーサルでは監督に随分しごかれました。本物に見えない、本当の気持ちでやれ、と。日常生活から変えて、食事制限をしたり手で洗濯したり、戦後復興期に近い生活をしてみるところから役を作り上げていきました」。
吉田浩太監督
2本目の『墨田区京島3丁目』は、学校の帰りに人気のコスメをつい万引きしてしまった女子高生のドラマ。タイトルになっている墨田区京島で生まれ育ったという吉田浩太監督は、手持ちカメラの映像で女子高生をリアルに描いている。
「主演の彼女自身は、お芝居の経験がゼロだったのですが、もともと僕は演出する時に細かいことは言わない方なので、彼女なりの良さを見つけられるといいと思っていましました。彼女から自発的に出てくる素の面白い部分を役とリンクさせていきました」と吉田監督は話した。
(左から)外山文治監督、百元夏繪、遠山陽一
3本目の『此の岸のこと』は、寝たきりの妻とその介護をする夫の日常、そしてある行動を、セリフを一切排した手法で描く野心作。外山文治監督は、
「私はシナリオからこの業界に入った人間なので、セリフや言葉の力は大事にしているつもりです。高齢化社会といわれていますが、若い世代はほとんど老人介護問題に参加していません。我々もそろそろ関心を持つべきだと感じています。2人が何を話していたのか、セリフは皆さんで考えて下さいという思いで作りました」。
老夫婦を演じた遠山陽一さん、百元夏繪さんは、蜷川幸雄率いる劇団さいたまゴールド・シアターの俳優。監督は芝居よりも介護手順のリハーサルに重点を置いたという。
遠山「最初は監督からいろいろ注文があったのですが、そのうちに好きな時に始めて、好きな時に終わっていいと言われ、勝手にやらせてもらいました」。
百元「映像は初めてで難しいところもありました。セリフを喋れた方が演じやすいのですが、セリフを覚えなくてすむのは助かりました(笑)」。
『短編(3)』は、14日(金)10:30から映像ホールでも上映される。
『26歳、幸せの道』ビル・チウ監督Q&A
「愛情をきちんと表現し、相手に伝えることの大切さを考えてほしい」
ビル・チウ監督
北京で働くシュンチンは、久しぶりに故郷の村に帰って来た。レンガ工場を営む父親は、母亡きあと一人で暮らしている。最近体調が思わしくないことを心配し、シュンチンは北京で一緒に暮らそうと提案するが、父は頑として首を縦に振らない。やがて北京に戻ったシュンチンのもとに、ある知らせが届く――。『26歳、幸せの道』は、互いを思いやりつつもうまく伝えることができない父と娘の関係を、海南島の美しい風景をバックに丁寧に描くドラマ。
自身も海南島で生まれ、北京で学んだというビル・チウ監督の個人的な経験が、作品に大いに生かされているという。
「この父娘の関係は、私と父の関係に非常によく似ています。あまり話もしませんし、確実に絆はあるのに、互いに思いを口にしない。でも、亡くなってからそれに気付いたり後悔しても遅いのです。作品を通して訴えたかったのは、愛情をきちんと表現し、相手に伝えてほしいということ。親だけでなく、家族や友人との関係の大切さも考えてほしいのです」。
中国の最南端である海南島とシュンチンが暮らす北京は、飛行機で4時間ほどの距離にある。このふたつの土地が、対照的に描かれている。
「海南島は沖縄のような気候で、人々の関係も密接なので温かい色調に、一方の北京は大都会の冷たさを出すためにブルーの色調にしました」。
父娘のほかにもう一人、重要な人物としてシュンチンと家族同然に育った“ピン兄ちゃん”が登場するが、彼の素朴な佇まいが作品に一層の深みを与えている。
「彼はプロの俳優ではありません。低予算の作品なので、クルーも映画に出演しているんですが、実は彼もカメラマン・アシスタント。この撮影で演技に専念したのは父と娘だけで、あとはみんな照明などの仕事と兼任していたんです(笑)」。
『26歳、幸せの道』は、14日(金)17:30から多目的ホールでも上映される。
『短編(2)』 Q&A
『Lieland』和田有啓プロデューサー、『マドンナ』関俊太監督、『記憶のひとしずく』畑中大輔監督
(左から)畑中大輔監督、鈴木萌美、関俊太監督、和田有啓
『短編(2)』で上映された3作品の監督、プロデューサー、出演者の皆さんがステージに上がり、それぞれの作品に込めた思いを語った。
人形劇の劇団員たちが、公演終了後の劇場に隠れていたアリスと名乗る少女を発見する『Lieland』は、片岡翔監督作品。今回は片岡監督に代わって、プロデューサーの和田有啓氏が挨拶した。
「片岡監督は、祖父の代から人形の仕事に携わっており、本人も現在人形のギャラリーで学芸員をしています。過去の作品も人形をモチーフにしていますが、今回はその集大成ともいえると思います」。
『マドンナ』は、交通事故で両親を失い、姉2人で暮らす女子高校生が、進路など様々な問題に揺れ動く姿を瑞々しく描く。関俊太監督は、
「最初にやりたかったのは三者面談の話なんです。そこから姉と妹というシチュエーションをふくらませていく過程で、普段考えていることを織り込んでいきました。シナリオでは、日常会話とは違ってもスッとするようなキレのいいセリフを意識しています」。
女子高生すずを演じた鈴木萌美さんは、
「打ち上げの時、監督がラストを変えたいと言い出しました。そこからまた一晩で撮り直して大変だったんですが、監督がそう言ってくれたことが嬉しかったです」。
『記憶のひとしずく』は、痴呆の母とその家族の日常を、温かく描く物語。名古屋という土地や映画への愛にも溢れた作品だ。畑中大輔監督は、
「痴呆や介護を難しい問題としてではなく、ごく自然な家族の一風景としてとらえようとしました。僕自身、祖母とその家族を見ていて、いつか表現したいと思っていたんです。問題として投げかけるより、これを見て家族のことを思い返してもらえるといいなという思いを込めています」。
『短編(2)』は、13日(木)14:00から多目的ホールでも上映される。
『チャンス』アブネル・ベナイム監督Q&A
「馬鹿げていて皮肉に満ちた格差社会を描くには、コメディが最適でした」
アブネル・ベナイム監督
パナマの上流家庭、デュボア家の邸宅で住み込みのメイドとして働くトーニャとパキータ。贅沢三昧の一家は、2人をこき使うくせに給料は何週間も未払い。家族への仕送りにも窮した彼女たちの怒りはついに爆発、一家を監禁して10万ドルを要求する。しかしやがて、裕福のはずの家庭が抱えるとんでもない秘密の数々が明らかに――。『チャンス』は、パナマの格差社会に痛烈なパンチを浴びせるクライム(?)コメディ。
これが長編第1作となるアブネル・ベナイム監督は、これまで数々のドキュメンタリー作品を発表してきた人。そもそもこの企画も、メイドを扱ったドキュメンタリー作品のためのリサーチからスタートしたのだという。
「貧富格差の問題は、普段ラテンアメリカの人たちが思っていても話したがらないテーマです。身近なところからリサーチを始め、家庭の中に入って観察したのですが、彼女たちをめぐる状況はあまりにも馬鹿げていて皮肉に満ちている。これを描くにはコメディが最適だと思いました。脚本を作ってく上で、やり過ぎかなと思うこともありましたが、実際のメイドたちの話を聞くと、映画で描かれていることも全くオーバーではありませんでした」。
貧しさから一夜にして抜け出すことを夢見て買い続ける宝くじや、2人が夢中になって見ている昼メロ『愛と魔法』など、映画のディテールも楽しい。
「でも本当は、宝くじが少し当たったくらいでは何も解決しません。裕福な主人と使用人が結ばれるという昼メロも嘘っぽく、貧しい人たちの夢でしかないのです」。
パナマで公開された際、観客からはどのような反応があったのだろう。
「中流の人々は感動してくれました。貧しい人々は大笑いして楽しんでくれました。裕福な人たちが集まる映画館では、あまり笑いが起きず、気まずい沈黙が流れていました(笑)」。
『チャンス』は、12日(水)17:30から映像ホールでも上映される。