SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017

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【デイリーニュース】 vol.11 『愛せない息子』 ヒルデ・スサン・ヤークトネス(脚本) Q&A

葛藤する父親……懐かない養子の息子と亡き妻への想い脚本家ヒルデ・スサン・ヤークトネス

愛せない息子』脚本家のヒルデ・スサン・ヤークトネス

 

映画祭3日目、長編コンペティション部門2本目の上映は、妻を亡くした男性と、妻の生前に迎えた養子との関係を描いた人間ドラマ『愛せない息子』。血の繋がらない父と子の関係をメインテーマにしながら、貧困国の抱える社会問題を盛り込んだ多層的な作品で、父親をノルウェーの人気俳優クリストッフェル・ヨーネルさんが演じている。上映後には、脚本家のヒルデ・スサン・ヤークトネスさんが登壇し、客席からの質問に答えた。

 

物語はノルウェーから始まる。妻を亡くしたヒェーティルは、妻が生きていた頃に迎えた養子ダニエルとの関係に悩んでいた。自分に懐かないダニエルに手を焼き、2人きりの生活にやり場のないイライラを募らせる。やがてヒェーティルは、2人でダニエルの生まれたコロンビアへと向かうことを決意。面倒見の良い現地のタクシー運転手の力を借り、ダニエルの実母探しに乗り出すのだが……。

 

この真に迫った人間ドラマは、どんな着想をもとに生まれたのか。ヒルデさんは、「コロンビアのホテルで会計士をしていたホルへ・カマチョという男性が考えたストーリー」と意外な企画の立ち上がりを明かした。「彼はノルウェー人の女性と結婚していて、今、ノルウェーに住んでいます。実のお子さんが2人いるのですが、ある日、『ノルウェー人の夫婦がコロンビアから養子を迎え入れて、奥さんに先立たれたらどうなるのだろう』と考えたそうです。ホルヘさんのこのアイデアが映画の企画コンペで優勝し、プロデューサーに就いた人から、私に脚本の依頼が来たのです」

 

この映画の成功のカギを握ったのは、素晴らしい演技を披露しているダニエル役の子役クリストッフェル・ベックくんのキャスティング。起用の経緯についてヒルデさんは、「最終的にフェイスブックで見つけた」という驚きの秘話を披露してくれた。「実際にクリストッフェルくんは、両親の片方がコロンビア人。その上、非常にノルウェー語が流暢なんです」。ただ、ひとつ問題があったそう。父親を演じたのは、『レヴェナント:蘇えりし者』にも出演するノルウェーの人気俳優クリストッフェル・ヨーネルだが、同じノルウェー語とはいえ、この父子2人の訛りが微妙に違ったのだとか。「子役の話すノルウェー語が、亡くなった母親カミラの訛りと合致していたので、最終的に、ダニエルは言葉を母親から学んだというふうに辻褄をあわせました」

 

ノルウェーでは養子縁組は決して珍しいことではなく、高齢出産が増えていることもあり、子どもができにくいカップルがよく行っているという。ダニエルはコロンビアからの養子という設定だが、ノルウェーではコロンビアと中国から子どもを引き取るケースが多いのだとか。「養子縁組の手続きは、お金も時間もかかる複雑な作業です。本来であれば養子縁組を必要としている子がたくさんいる国から受け入れるべきなんでしょうけど、特にコロンビアが多いのは、手続き上の条件に合致しやすいから。手続きには多くの場合4年程度かかります。さまざまな面接やバックグラウンドのチェックがあったり、子どもの母国に数カ月滞在しなければならなかったり。映画では、ヒェーティルは積極的に養子を迎えたいと思っているわけではないけど、カミラがどうしても養子を欲しがったいう描き方をしています。さらに言うと、主人公夫婦が子どもを授からなかったのは、ヒェーティルのほうの身体に原因があるのかも……という背景も設定していました」

 

リサーチを重ね、脚本執筆に数年をかけたというヒルデさん。最後に、「養子縁組は人道的な行為だと受け取られがちですが、ただ『子どもができない』『子どもが欲しい』という自己中心的な動機で行う人もいます。貧しい他国から子どもを迎え入れるというと、『救い出している』というふうに見られますが、必ずしも人道的な行いとは言えませんし、場合によっては人身売買につながる状況もあるのです」と養子縁組を取りまく問題点を真摯に訴え、Q&Aを締めくくった。

 

少子化、未婚・晩婚化が進む日本にとっても、遠い国の物語で済ませることのできない『愛せない息子 』。7月20日(木)の17時30分から、多目的ホールで2度目の上映が行われる。


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