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【デイリーニュース】vol.07 「短編②」『サカナ島胃袋三腸目』『喰之女』『ストレージマン』 Q&A
アニメ、スリラー、社会派、ジュブナイル、閉塞感を描いた4作
左から「短編②」の『ストレージマン』萬野達郎監督、『サカナ島胃袋三腸目』若林萌監督、『喰之女』中西舞監督
15分以上60分未満の8作品が選出された国内コンペティション短編部門。「短編②」は、先行きの見えない焦りや苛立ちに焦点を当てた4作品が集められた。1回目の上映には会場に多くの人が詰めかけ、魚の腹の中で暮らす3人家族を描いアニメーション『サカナ島胃袋三腸目』、女優の野心と執念があらわになるスリラー『喰之女』、トランクルームで暮らす男の挫折と再生を捉えた社会派ドラマ『ストレージマン』、思春期の少女と末期がんを患った中年女性の交流を紡いだ『清風徐来』の4作品は、満場の拍手をもって上映を終えた。
上映後のQ&Aでは、『サカナ島胃袋三腸目』の若林萌監督、『喰之女』の中西舞監督、『ストレージマン』の萬野達郎監督が登壇。3年振りのリアル開催ということもあり、3人の監督はまず、スクリーン上映に対する嬉しさと、来場した観客への感謝からはじまった。
『サカナ島胃袋三腸目』は、魚の腹の中で暮らす、豚の父親、魚の母親、おたまじゃくしの息子という3人家族の物語。一見、突飛にも思えるこのキャラクター設定だが、若林監督はその着想について、「3人家族はすべて生物が違うのですが、家族だからといって、同じコミュニティだからといって、価値観をともにするわけではないということを描きたかった。そのため、哺乳類の豚と、魚類の魚、子どもが両生類でというキャラクター設定にしました」と解説した。
Q&Aセッションでは、登壇した監督同士での感想も交換。中西監督は本作に対し「(若林)萌さんのアニメーションは20年代、30年代のディズニーの短編みたいなレトロ感があり、オーケストラとのアッセンブルもすごく素敵で、魚とか豚とか抱きしめたくなるくらい可愛かったので大好きでした」と惚れ込んだ様子。
23名のオーケストラを率いた活劇的な音楽も魅力の一つだ。「本作は東京藝術大学大学院の映像研究科アニメーション専攻在籍時に制作した作品です。そこでは音楽学部の音楽環境創造科という学科とコラボレーションをして作品をつくるというカリキュラムがありまして、音楽学部の奏者、作曲のみなさんのお力を借りて制作しました」。
若林監督は今後も様々な企画を練っており、「まだ企画段階なんですが、犬と人間の関係を描いた中編くらいのアニメーションに挑戦してみたいと思っています。今後は作画などのビジュアル面もふくめて、チーム体制で動いていけたらと夢見ていろいろ計画中です」と熱意を語った。
『喰之女』は台湾の台南と高雄を舞台にしており、会話はすべて台湾語だ。観客から舞台を台湾にした理由を問われると、中西監督から本作の裏話が語られた。「実は当初、このアイデアが浮かんだときは、私が韓国にいたということもあるんですが、韓国で撮ろうと思っていました。アジア各国でホラーの短編を撮るというテレビ向けの企画をいただいていたんです。そのときは、若さに執着する女優さんというテーマに撮ろうと思っていたんですが、その企画がキャンセルになってしまたんです。そのときに台湾人のプロデューサーから声をかけていただきました」。
核心に触れてしまうため、詳しくは明かせないが、その後、台湾のレストランに赴いた際、“ある料理”と出会ったことが、本作が結実するきっかけとなったという。「台湾は夜遅くまで食べて飲んでと、みんながグルメを楽しんでいます。食べることで健康になるということに熱心な人が多い。この台湾の雰囲気を盛り込めたらいいなと思って今回撮らせていただきました」。
中西監督の初監督作品『HANA』(19)は韓国・釜山で撮影されおり、日本ではない。アジアに対する思い入れを問われると、「私が東南アジアで育ったこともあり、韓国もそうですが、台湾など、アジア諸国は身近な存在です。特にアジアだけにこだわっている訳ではないですが、日本と東アジアが組み合わさって新しいハイブリッドなジャンル映画を作っていけたらという思いが自分の中にはあり、それを映像を通して表現してきたい」と熱意を込めた。
『喰之女』制作時には個人的につらい経験を立て続けに味わったという。だからこそ、本作を通じてそれらを乗り越える力を受け取ってほしいと願う。「作品に出てくるミミみたいに、つらいこととか、恐怖とか、悲しみとか、怒りとかに飲み込まれそうなときに、それを自分が飲み込んでしまえという気持ちを作品から受け取ってもらえたらうれしい」。
『ストレージマン』は本映画祭での上映がワールドプレミアとなる。さらに今回は1回目の上映ということもあり、萬野監督は開口一番、「正真正銘、みなさんが初めての観客となっていただきました」とうれしさをあらわにした。
コロナ禍で派遣切りにあったことをきっかけに職を失い、トランクルームでの生活を余儀なくされた男の再生物語である本作。居住禁止であるトランクルームでの暮らしをリアルに描いているが、もし1シーン追加できるとしたらどこを強調したいかとの質問に「トランクルームでの生活ぶりをもうちょっと広げたい。(新聞などの)記事を見るとコンセントを使うためにカフェや図書館に入り浸ったりすることがあるので、そのあたりを描きたかった」とリアルさの追求に余念がない。
萬野監督はこれまで、経済情報メディア「NewsPicks」やNHKワールドの経済番組で演出を担当してきた。本作の核となる“トランクルーム生活”も萬野監督ならではの着眼点だ。しかし、あえて映画に挑戦している理由に関して尋ねられると、「映画は1つの到達点に向かって、いろいろな部署の人で作り上げていくところに魅力を感じているメディア。仕事で抱えているストレスを自主制作で発散しています。映画で感じたストレスは仕事で(笑)」と明かした。
スクリーン上映で映画の良さを再認識したという来場者からは、配信サービスが台頭する中、改めて映画とドラマの違いとは何かを求められる場面も。「ドラマと映画の違いでいうと、我々のは短編なので尺的にはちょっと違うと思いますが、2時間未満で別世界にいけるみたいな、そういうところを演出できるのが映画の魅力かなと思います。ドラマでもそういうところはありますが、こうやってみなさんと一緒に映画を体験できるというのが素晴らしい表現方法だと思います」。
最後に萬野監督の今後について聞かれると「企画段階なんですが、前作は20分、今作は40分だったので、次回はいよいよ長編に挑戦したい」と意欲をみせた。
「短編②」の次回上映は7月22日(金)11時から映像ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。オンライン配信は7月21日(木)10時から7月27日(水)23時まで。