【デイリーニュース】 7月14日(日)
vol.15 過去ノミネート監督新作上映『おだやかな日常』Q&A
内田伸輝監督「共感、反発を超えて、これが議論のきっかけになれば」
内田信輝監督
2004年の第1回開催以来、数多くの若手映像クリエイターを世界に排出してきたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭。今年は映画祭開催10周年を記念した特別企画として、過去にコンペティション部門にノミネートされたクリエイターたちの新作を3本上映する。
最初の上映は、2004年にドキュメンタリー作品『えてがみ』が長編コンペティション部門にノミネートされた内田伸輝監督の『おだやかな日常』。2012年に劇場公開された本作は、これまでにロッテルダム国際映画祭、トライベッカ映画祭、釜山国際映画祭など海外の映画祭でも上映されている。
2011年3月11日。東日本大震災とそれに続く原発事故は、東京近郊に住むユカコとサエコの生活を一変させる。政府の発表に不信を抱き、放射性物質への不安を募らせるユカコ。夫に離婚を切り出され、一人で必死に幼い娘を守ろうとするサエコ。おだやかさが戻ったかに見える日常の裏には、見えない恐怖に翻弄される人々の怯えや苛立ち、そして絶望が潜んでいた――。
内田監督は、都内で震災を経験した後、様々な情報が錯綜し何を信じていいのかわからない混沌とした状況であるにもかかわらず、数日後には町がおだやかな日常を取り戻しているのを見て、「これは映画になる」と直感したという。「4月の段階で、メインのプロットはできていました。何かに突き動かされるというか、これを描かなくてはいけない、作らなければならないと感じました」。
震災後の何もないスーパーの陳列棚、放射能への不安を口に出せない雰囲気、子どもにマスクをさせている母親に対する「周囲の不安を煽るな」という反発など、物語は非常にリアルなエピソードに溢れている。
「ツイッターなどネット上の混乱する情報や、そこからつながるブログを読んだり、実際に子どもを育てているお母さんに話を聞いたり、脚本はかなりリサーチして書きました。この映画に共感する人もいれば反感を持つ人もいるでしょうし、国を超えてさまざまな考えがあると思います。この映画を見ることで震災を改めて心に刻んでいただきたいですし、これが議論のきっかけになるといいと思っています」。
『えてがみ』はぴあフィルムフェスティバル2003審査員特別賞、第28回香港国際映画祭スペシャルメンションを、初の長編劇映画『かざあな』は第8回TAMA NEW WAVEグランプリ、ぴあフィルムフェスティバル2008審査員特別賞を、『ふゆの獣』は第11回東京フィルメックス最優秀作品賞を受賞するなど、国内外で大きな注目を集めている内田監督。最新作は脚本・監督を手がけた『キエル』。今後のさらなる活躍を期待したい。