【デイリーニュース】 7月14日(日)
vol.10 「短編(1)」 Q&A
『雑音』『日の射す方へ』『アイノユクエ』
左から根岸絵美さん、マキタカズオミ監督、片桐伸直さん、内田進康監督、上原三由樹監督
短編コンペティション部門「短編(1)」では、『雑音』、『日の射す方へ』、『アイノユクエ』と、どの作品も静謐な筆致で描かれているにもかかわらず、生または死をきっかけに、力のある、または凄みのある決断をする人々の物語が紡がれている。
『雑音』は、妊娠に気づいた女子高生とその彼、それぞれの決断を、高校内だけを舞台に描く。
上原三由樹監督は、ティーンエイジャーの妊娠をモチーフにした映画で、女の子の気持ちに寄り添いたかったのと同時に、男の子を浅はかに描きたくなかったという。
「毎年20万件以上もの中絶手術が行われており、また中絶をした女性に自殺者が多いというレポートを読みました。妊娠中絶をモチーフにした作品には、女の子に妊娠告白をされ、ショックを受ける男の子の話が多いのですが、紋切り型には描きたくなかった。中絶とは、女性にとって身体の一部を失うこと。肉体的にも精神的にもダメージは大きいわけですが、それでも人生の終わりではない。私にできる表現で、女性、男性それぞれにとっての未来を考えるきっかけになれば」と上原監督。
『日の射す方へ』は、急逝した父親のラーメン店を継いだ兄弟が、店の創立60周年(生きていれば父親の還暦)を機にそれぞれの人生を考え直す物語。
「なんでもない人たちのなんでもない話を撮りたかった」と内田進康監督がいう本作の撮影は、四季を通じて行われ、その風景は台詞以上に雄弁に兄弟の物語を語った。「現場は、スタッフ、キャストともに男ばかり。骨太な作品に仕上げることができて嬉しいです(笑)」と内田監督が言えば、「大きな身体をしていますが、悩みがあると一番に察してくれる細やかな人」だと大学のヨット部の後輩だという主演俳優の片桐伸直さんは、監督の人柄を明かし、さもありなんと会場を納得させた。
『アイノユクエ』は、精神を病んだ妻と、彼女を捨てた夫、そして妻の妹の3人が織りなす奇妙な人間関係の物語。
「そういう映画として作ったわけではないけれど…」とマキタカズオミ監督はいうが、客席から「サイコホラーとも取れる」という声が出た本作。監督は、「ひどいことが起きて、絶望を感じた時、人はどんな行動をとるのかに興味があっただけ」なのだそうだが、かなりインパクトのあるラストシーンとなっている。「わかりやすい“希望”は他の方に任せて、この映画では僕なりの“希望”を描きました。インパクトがあると言われるエピソードは、それを撮りたいために始めたようなものなので、成立させるために、きっちりと脚本を作ったつもり」と自信のほどをのぞかせる。そのシーンを演じた主演女優の根岸絵美さんの演技も素晴らしかった。どんな結末なのか、ぜひ見てお確かめいただきたい。
偶然にも3作品とも、デジタル一眼レフカメラで撮られた、デジタルシネマ世代の作品。その映像クオリティも含め、次回上映でご確認いただければと思う次第。
「短編(1)」は次回、7月17日(水)14:30から多目的ホールで上映される。