【デイリーニュース】 7月14日(日)
vol.12 『フロントライン・ミッション』 ヤリブ・ホロヴィッツ監督Q&A
「イスラエル人とアラブ人が“ガザ”を舞台に共同製作した成果」
ヤリブ・ホロヴィッツ監督
長編コンペティション部門の出品作『フロントライン・ミッション』は、当映画祭がジャパンプレミアとなる。ガザ地区に送り込まれたハイティーンのイスラエル兵。ある日、パトロール中に民家の屋上から洗濯機が落とされ、一人の兵士が殺害される。彼らは犯人を拘束する命を受け、その屋上でアラブ人らを監視することに。
青い空のもとで撮影された映像はあくまで明るく、幼い子どもの表情や主婦が家の中を掃除する様など、どこの国でも見られる日常の風景にも見える。しかし、迷彩柄の服とヘルメットで身を包み、銃を持った兵士が登場すると俄然、空気は緊張感を帯びた。戦闘という非日常は、日常と地続きだということがわかる。
本作には、ヤリブ・ホロヴィッツ監督の実体験が反映されているのだそう。
「イスラエルでは誰もが18歳で兵役につきますが、僕の時はパレスチナ人がガザで蜂起(インティファーダ)、父の時は第三次中東戦争でイスラエルは西岸ガザを占領していました。兵役に就く際には、ホロコーストでのユダヤ人迫害の歴史や軍事訓練を受けます。しかし、実際にガザに出向くと、僕らの相手は兵士ではなく、デモをしているただの一般市民。上からの命令は大義とは異なるもので、精神的な折り合いを付けられず、心を病む友人も少なくありませんでした」
多くの人がトラウマを抱え、年を経ても兵役時の夢を見るイスラエル。しかもその問題を公にすることはタブーとされてきた。この状況を変えたいと映画を製作することを決意。内容が内容だけに、最初は資金集めに苦労したが、結局、国からの助成金を獲得して製作にこぎつけた。製作費が潤沢ではなかったため、撮影期間はたった22日。ただ出演者は皆、プロではなかったので、ギャラは安く抑えることができたという。
「アラブ人に、好きなだけユダヤ人に石を投げられますと言ったら、皆、喜んでノーギャラで参加してくれました(笑)。というのは半分冗談ですが、この映画の俳優は皆、アマチェアです。実際の兵士はとても若いので、演技経験よりも“若い”ことのほうが重要だったのです。どちらの兵士もティーンエイジャーなのは、若さゆえの無知さが統率しやすいという理由と、彼ら自身、戦うことで親に喜ばれ、必要とされたいと思っている。そんな理由なのです」
苦労の末、完成し、上映が始まると、今度はイスラエル人、アラブ人の両方から責められ、針のむしろ状態だったとか。
「イスラエル兵がバカみたいだとイスラエルの観客に詰め寄られたり、なぜ歯のないアラブ女性を映画に出演させたのか? とパレスチナ人から怒られたり……。本気で脅迫されることもありましたが、それはこの作品が中立であるということの証明であり、それで良しとすることにしました。それにこの映画は、そんな両者が共同で取り組んだ数少ない成果物なのですから」
今年のベルリン国際映画祭ではパノラマ部門C.I.C.A.E.(国際アートシアター連盟)賞を受賞して失地回復。ヤリブ・ホロヴィッツ監督は、他の国で上映できたこと、評価されたこと、そして日本のSKIIPシティで上映できたこと(会場の上映機器がハイクオリティであることにも!)を心から喜んでいた。
『フロントライン・ミッション』は次回、7月17日(水)17:30から多目的ホールで上映される。