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【デイリーニュース】 7月16日(火)
vol.22 『神奈川芸術大学映像学科研究室』坂下雄一郎監督Q&A
日本社会に鋭くメスを入れる娯楽映画
「この映画はフィクションです」


左から今村左悶さん、坂下雄一郎監督、飯田芳さん


 国際コンペティションの長編部門にノミネートされている『神奈川芸術大学映像学科研究室』は、同部門に出品している日本映画三本のうちの一本である。東京芸術大学大学院映像研究科の第7期修了作品として作られた本作は同大学の教授をつとめる黒沢清監督からもエンタテインメント作品として紹介され、日本社会の官僚体質やことなかれ主義な側面をユーモラスに描いている。

 大学の研究助手として働く奥田は講師陣の要求に応えながら学生の尻拭いを黙々とこなす日々。ある日、学生が課題のために学校の機材を盗むという事件が起きるが、学校の評判を落としたくない上層部は事件をもみ消そうとする。度重なるお役所対応にウンザリした奥田はある行動に出ようとするが……。上映終了後には坂下雄一郎監督、主演の奥田を演じた飯田芳さん、音楽スタッフの今村左悶さんがティーチ・インにかけつけた。

 自身も大学に勤めていた経歴を持つ坂下監督は「実体験に根ざして作ったもののほうがより面白くなる」というポリシーに基づいて、学校を舞台に先生でも生徒でもない人物を主人公に据えた。「実際には劇中で起きているような事件はありませんでしたが、報告書を提出するなど職員の仕事のディティールは自分の経験を参考にしています。ただ、内容が内容だけに東京芸大からは(芸大のことだと思われると困るから)『この映画はフィクションです』と但し書きを入れて欲しいと言われ、そのようにしました(笑)」
 
 奥田役の飯田さんは『ニュータウンの青春』(森岡龍監督)『東京プレイボーイクラブ』(奥田庸介監督)などにも出演している気鋭の若手俳優であり、過去の出演作を観た坂下監督からの直々のオファーでキャスティングされたという。「僕自身も多摩美術大学の映像演劇学科に通っていたので、研究助手という職業についてはイメージしやすかったんです。自分が学校の機材をなくして怒られたこともありますし、映像学科なんて基本的に自分勝手な学生しかいませんから(笑)」。

 また、石井裕也監督作品にも数多く参加してきた音楽の今村さんは「本編がゆったりとしたテンポで進むので、最初の5分で飽きられないようにということを意識しました」と、音のアプローチで観客をつかむ秘訣を暴露。その仕事は映像との二人三脚で作品の幅を広げている。

 ところで、奥田は映画の祖であるリュミエール兄弟が嫌いという設定だが、坂下監督いわく「可愛さあまって憎さ百倍、というところでしょうか。映画が好きで大学に入ったのに、期待を裏切る現状に失望している感じです」とのこと。そんな彼のせめてもの反逆はぜひ本編で確認して欲しい。

 客席からは「観ていてバブル時代を思い出したが、今の日本は30年前と変わっていないようだ」という声も。まるで現代日本社会の側面を象徴するような映画のラストは、出演した飯田さんが「しっくりきましたね。まあ、こういうことなんだろうなあと」と言うように、フィクショナルなようでいて妙にリアリティがある。坂下監督は「学校という独特の世界の慣習を描ければと思っていたので、当初は万人受けするとは思っていなかったのですが、観た人からは意外と共感してもらえるので結構驚いています」と予想外の手応えも感じている様子。次世代の社会派娯楽映画の担い手として注目したい。

 『神奈川芸術大学映像学科研究室』は次回、20日(土)17:30より多目的ホールで上映される。

 

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