【デイリーニュース】 7月16日(火)
vol.24 『セブン・ボックス』フアン・カルロス・マネグリア監督Q&A
パラグアイ産の新感覚エンタテインメント上陸!
「この映画でパラグアイ人の国民性を知って欲しい」
フアン・カルロス・マネグリア監督
本国で大ヒットを記録したというパラグアイ映画『セブン・ボックス』が日本に初お目見えした。長編コンペティション部門で上映され、女性のタナ・シェムボリと共同で監督を務めたフアン・カルロス・マネグリアが来日。平日の昼間にもかかわらず会場は大盛況で、場内には国内外からやって来たパラグアイの人の姿も見られた。
携帯電話が欲しくてお金のために怪しい箱の配送を引き受けた17歳の少年ビクトルだったが、箱の中身をねらって次々と危険が襲いかかる。巨大な市場を舞台に繰り広げられる怒濤のチェイスの行方は……。準備に1カ月半、撮影に44日間を費やした本作の総製作費は約50万ドル、そのうち仕上げの費用は映画祭で獲得した賞金から捻出したそうだ。
最初の構想は1991年にさかのぼる。当時ルポの調査中だったフアン監督は、地元民で賑わう大型の市場、第4市場(メルカード・クアトロ)に滞在し、ロケ地に最適だと確信。2004年に再び訪れ、同地域で最も活躍しているのが荷物の運搬人だと知り、運び屋のアイデアを思いつく。
それだけにマネグリア監督は本物の第4市場で撮ることにこだわった。通行人の規制もせず、実際に買い物客が行き交う中で行われた撮影は大変だったが、夜中の撮影も警察の協力で乗りきった。エンドロールにクレジットされている大量のエキストラの名前は、ノーギャラで参加してくれた彼らへの感謝の気持ちである。
映画の最後で少年が目にする動画を携帯電話で撮影されたものにしようと考えたことから、パラグアイでカメラ付き携帯が初めて発売された2005年を物語の背景に設定。「パラグアイは妙に先進テクノロジーが普及していて、特に第4市場では誰でも正規の電化製品の最新機器が手に入る」というからディテールも完璧である。その結果、テレビに出たいというビクトル少年の夢は意外な形で叶えられるのだが。
ビクトルの野望は幼なじみの少女をはじめいろいろな人を巻き込んでいくが、そのうちの一人として、ビクトルの姉に心を寄せる韓国人の青年が登場する。「パラグアイには韓国からの移民が多くて、第4市場にもたくさん住んでいる。韓国人青年を演じた俳優も移民の家系の出身だけどパラグアイで生まれ育ったんだ。彼のセリフの一部には敢えて字幕をつけていない箇所があるのは、学生時代に韓国系のクラスメイトが家族と韓国語で会話をしているのをそばで聞いていてまったくわからなかった僕の経験を反映させたんだよ。だから何を言っているのか想像しながら見て欲しいね」
パラグアイには映画産業というものが存在せず、国内で作られた映画はたった20本ほどしかないらしい。当然、制作資金や作り手を育成する環境もない。マネグリア監督自身も映画を専門に教わったことはなく、映像の仕事はテレビのCM制作を通じて学んだ。そんな中で生まれた本作で伝えたかったのはパラグアイの国民性だと言う。「パラグアイ人のユーモアセンスや考え方、ものの感じ方などはあまり世の中に知られていないと思うから、まずはそれをしっかりと描きたかったんだ。登場人物は皆お金を必要としているけど、それを求めようとして彼らが得た結果のほとんどは、お金じゃなくて偶然に左右されている。お金を手に入れたとしても夢が叶うわけではないんだよね」。
日本に住むマネグリア監督の友人や、この日のために同行来日した監督のお母さんも客席から見守る中、ラテン系の華やかなムードに包まれて幕を閉じたティーチ・イン。パラグアイ映画の未来が垣間見えた一瞬だった。
『セブン・ボックス』は次回、20日(土)14:00より映像ホールで上映される。