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【デイリーニュース】 vol.10 『うつろう』久保裕章監督 Q&A
「共感できない人を描く過程で、その人物を理解していく」
『うつろう』の久保裕章監督と主演女優の横山真弓さん
コンペティション部門には3本の日本作品がエントリーしている。今年の映画祭で日本映画上映のトップバッターとなったのは、15歳の少年と年上の女性との恋愛を描く『うつろう』だ。
孤独な女性・貴子は、公園で出会った資産家の息子・悠に絵画を教えることになる。それから10年たち、15歳になった悠は貴子への思いを募らせ、貴子も悠を1人の男性として意識するように。だが悠の両親に、高校受験を理由に絵のレッスンの中止を言い渡された2人は……。
終映後には久保裕章監督、主演女優の横山真弓さん、製作の多賀悦二さん、撮影の齊藤友一郎さん、演出助手の山口裕輝さんを壇上に招いてQ&Aが行われた。
久保裕章監督は、メロドラマの制作とメロドラマのクラシックを上映する団体Doctor Merrick Productionsを主宰している。
「メロドラマを作りたいというのが最初にありました。自分のテーマでもあるんですが、自分が共感できない人を描いていくなかでその人物を理解していく、という過程を映画のプロセスと合わせたかった。共感できないカップルを探したときに、日曜日に公園で絵を描いているおばさんと、やたらと芸術論を話す中学生が浮かびました」
監督からして“共感しづらい”という貴子を演じた横山さんは、20歳も年下の中学生と真剣に恋愛する役柄に苦労したようだ。
「脚本を頂いたときに、貴子という役に全く共感できなくて。ただひっかかるものはあったので、演じていくうちに理解していくという感じでした。全許容しようという姿勢で、監督のおっしゃることを全部受け入れて、流れに身を任せました。稽古も滅茶苦茶やりましたね」
15歳の悠を演じた大内陸と同級生役の高橋綾沙は、撮影当時実際に中学3年生だったという。「オーディションをやったんですが、この2人にだけは事務所の写真を見てこちらから声をかけて、オーディションに来てもらいました」と監督は話す。非常に難しい役柄だが、イメージ通りの俳優を見つけたようだ。
「僕は全くの絵空事としてのSFやホラー映画にはあまり興味はありません。反面、現実を描いた社会的なものや身辺雑記のようなナチュラリズムでもないものを作りたかった。現実の世界を舞台にはしていますが、実際には起こり得ないような世界を描きたいという思いがあります」
撮影の齊藤さんは、「監督は密室のシーンが得意なんです。スタッフのアパートで撮影したので、本当に狭くて、そこでどうやって撮るかが大変でした。後半のロケに出てからは、自由にやらせてもらいました」。製作の多賀さんによると、「撮影期間は2カ月くらい、日数にして20日くらい」だったとか。演出助手の山口さんは、「撮影が8月、9月の暑いなかだったので、貴子がソフトクリームを持ってくるシーンでは途中で溶けてしまったり、日が暮れてしまったり、暑いなかでも冷や冷やしました」と撮影を振り返った。
写真右から演出助手の山口裕輝さん、主演女優の横山真弓さん、久保裕章監督、製作の多賀悦二さん、撮影の齊藤友一郎さん
『うつろう』は7月23日(木)にも午後2:30から多目的ホールで上映され、久保監督と製作の多賀さんによるQ&Aも予定されている。