ニュース
【デイリーニュース】 vol.11 『ペインキラーズ』 テサ・スグラム監督 Q&A
丁寧なキャラクター造形に支えられた彫りの深い青春映画
『ペインキラーズ』のテサ・スグラム監督
子役から女優として活躍したのち、映画学校に入学し監督になったテサ・スグラム監督。短編を経て初の長編監督作品となったのが、この『ペインキラーズ』だ。
弁護士の母と暮らす16歳の少年カスパー。作曲家を目指す彼はユース・オーケストラのオーディションに受かるが、同時に母がガンに侵されていることを知る。父のことを決して教えてくれない母に内緒で父を探し始めたカスパーは、父が高名な戦場カメラマンであることをつきとめる。両親のことに悩みながら、自分の将来や、好きなのに「都合のいい友達」としてしか見られていない彼女との関係など、思春期男子の悩みも抱えるカスパーを描く青春映画である。
上映後、壇上にスグラム監督が招かれQ&Aが行われた。オランダ映画というとポール・バーホーベン監督作品のようなバイオレンスものが日本では有名だが、『ペインキラーズ』はそれとは全く違う。悩み多き青春と家族の葛藤を描く秀作ドラマだということで、オランダの家族関係についての質問からQ&Aは始まった。
「家族の絆は日本の方が強いのではないでしょうか(笑)。オランダでも家族の絆は強いと思いますが、離婚率が高いのです。カスパーは母に強く愛されていることは分かっていますが、両親から愛されたいという気持ちを持っていて父親を探します。ところが父親は孤独を愛する人だったのです。
この映画はカスパーに焦点を当てているので、観客は両親の出会いなどを想像するしかありません。私は両親に年齢差があることにしました。若いころの母は妊娠したときにいきがるところもあったのでしょう、自分ひとりで育てると言い切ってしまいます。突き放された父は母子とだんだんと距離が開き、何かしたくてもできない状況になり、やがてどうしたらいいか分からなくなったのではないでしょうか。彼は嫌な奴にはなりたくなかったけれど、といって父親らしい人でもなかったのです。とはいえ、わたしは楽観主義者なので、たぶんこの父と息子は何年かすればいい関係になれると信じたいです」
戦場カメラマンである父親のモデルは、有名な戦場カメラマンのジェームズ・ナクトウェイ。ナクトウェイのドキュメンタリー映画を参考にして父が撮影に訪れるジャカルタのシーンを撮影したのだそうだ。このように、父母をはじめとして、カスパーをとりまく女の子たちや友人など脇役の造形が確かなのも『ペインキラーズ』の魅力のひとつ。
「長編劇映画は初めてですが、長編はいかに信憑性のある話を作るかの勝負だと思いますし、そのためには何よりも脚本とキャラクター造形ありきだと思います。そのために私はリハーサルを重視しました。特にカスパー母子のシーンは、リハーサルを録画して家に帰ってから見直して、また次の日にリハーサルをするという方法を取りました。
カスパーを演じたハイス・ブロムは17歳ですが、今オランダではとても人気のある旬な若手俳優です。とても勉強家で、ピアノを弾くシーンのために特訓して、前半はハンド・ダブルを使っていましたが、後半では自分で弾いています。年齢よりもしっかりしていて、見た目にも大人っぽいのでカスパーを演じるためにもう少し幼く見えるよう肩を落としてみたり、姿勢などをだらっとした感じにしてもらいました」
クライマックスで演奏される曲は監督の弟さんが作曲したオリジナル曲だそうだが、ここでも姉のデビュー作を手伝うという家族の絆があったのである。
次回『ペインキラーズ』の上映は、7月22日(水)午後2時から映像ホールで行われ、スグラム監督のQ&Aも予定されている。