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【デイリーニュース】 vol.12 『短編③』Q&A
『あかべこ』『わたしはアーティスト』『虹の麓まで』
右から『あかべこ』の高橋秀綱監督、主演の佐野仁香さん、『わたしはアーティスト』の籔下雷太監督と主演の尾崎紅さん、『虹の麓まで』の高岡尚司監督と撮影の寺西昭博さん
20日(月・祝)午後に多目的ホールにて行われた『短編③』の上映には、自らのアイデンティティを模索してもがき苦しむ主人公が、偶然出会った他者との交流のなかで成長し、活路を見出していく3つの物語がそろった。アイデンティティの確立という通過儀礼を、少女、女子高生、少年と立場の異なる主人公が必死に乗り越える様は共感を生み、胸を打つ。上映後にはQ&Aが行われ、『あかべこ』の高橋秀綱監督、主演の佐野仁香さん、『わたしはアーティスト』の籔下雷太監督と主演の尾崎紅さん、『虹の麓まで』の高岡尚司監督と撮影の寺西昭博さんが登壇した。
『あかべこ』は、6歳の少女ミカを主人公に据えたハートウォーミングストーリー。母の出産のため、会津の祖父母宅に預けられたミカだったが、生まれてくる赤ん坊の話題ばかりで誰も相手にしてくれない。赤ん坊のお守りとして飾られたあかべこは、意地悪く首を揺らしている。状況に憤慨し気持ちの行き場がなくなったミカは家出を決意。あかべこを持ちだして家をあとにするが、雪道で奇妙な女に出会う。
物語終盤、女の背中におぶさったミカが、ろうそくの灯りに照らされた幻想的な雪道を行くシーンが登場する。高橋監督は撮影には苦労したが、いちばん思い入れがあるシーンだと明かした。「『会津絵ろうそくまつり』というお祭りから絵ろうそくと燭台をお借りして撮影しました。しかし、陽が沈むまでの瞬間を撮影したので、20分くらいしかありませんでした。撮り直しがきかない長回しのため苦労しました。実は初日に撮影する予定だったんですが、吹雪いていたためろうそくに火がつかず、急遽、2日目の朝にロケハンを再度行い、新しいロケ地を決めて撮影しました。抜けに会津磐梯山が映っているので、ロケ地を変更してよかったと思っています」。主人公のミカを演じた7歳の佐野さんも、撮影時の苦労話を披露。「長靴のなかに雪が入ったり、裸足のときなどすごく冷たかったんですが、足湯に入ったんで気持ち良かったです」と愛嬌たっぷりに語り、会場は来場者の微笑みで包まれた。
『わたしはアーティスト』は、ビデオアートの制作に自己表現を見出した女子高生、沙織の物語。他人とコミュニケーションを取るのが苦手な沙織は、誰もいない放課後の学校で独り、ビデオアートの制作に没頭していた。しかしある日、その姿をクラスメイトに見られてしまう。
自らの体験を映画に反映したという藪下監督。「最初は自分自身の話をやろうと思っていました。アーティスト気取りの男の話ですね。しかし、ちょっと書けなくなってしまって、男女を入れ替えてみたところ、スラっと書けました。男女を入れ替えても、自分の話ではあります。脚本段階ではコメディっぽく書いていたんですが、撮っているうちに主人公に共感してしまい、シリアスも混ざってしまったかな」と自作を分析しつつ、あくまで自分の話であることを強調した。主演の女子高生を演じた尾崎さんも作品を振り返り、「私以外のキャラクターが面白いなと思います。私ももうちょっとできたなと、反省しています」と遠慮がちに目を伏せた。しかし、劇中の告白シーンに関して触れられると、「(相手を)ぜんぜん好きではなかったので、歩いてくるところでも、彼が面白くて……。本当に好きな相手を(手に持ったビデオカメラの画面に)映しながら告白しました。すみませんっ!」と裏話を暴露、会場を盛り上げた。
『虹の麓まで』は、悩みを抱えるソフトボール少年のプチロードムービー。少年は親戚のおじさんとともに、四国八十八カ所霊場第十二番札所焼山寺を目指していたが、自分の気持ちを理解してくれないおじさんに腹を立てて、逃げ出してしまう。
「少年は僕自身を投影したもの」と、高岡監督は製作に至った思いを熱く切り出した。「僕自身小学校からソフトボールをやっていました。あの少年は本当に自分なんです。小学校のときにすごく悩んでいたんですが、大人になって四国八十八カ所をまわったんですね。その時に生きている事自体がありがたいことだと気がつきました。この、『生きている事自体がありがたい』ということを、もっと前から、小学校のときから知っていれば、自分の人生はもっと変わったんじゃないか、という思いで話を作ろうと思いました」。撮影の寺西さんは、本作の撮影は天候との戦いであったと振り返る。「2日間、撮影を見込んでいたんですが、次の日に台風が来ることがわかりました。最初は順撮りという話をしていたんですが、それは無理だろうと。朝3時に大阪を出て、明石海峡をわたり、徳島に入って、とにかく脚本を埋めようと撮っていきました。良いかどうか分からないんですが、勢いだけはあるんではないでしょうか」。駆け足での撮影となったものの、それを感じさせない本作。その理由を尋ねられた高岡監督は、「本読みや打ち合わせを撮影の前からずっとやっていたので、現場は慌ただしかったけれども、迷いなく撮影できたと思います」と自信を持って答えてみせた。
次回の『短編③』は、7月23日(木)午後5時から映像ホールで上映される。『あかべこ』の高橋監督とキャストの富山えり子、『わたしはアーティスト』の籔下監督とキャストの高根沢光のQ&Aも予定されている。