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【デイリーニュース】 vol.13 『ビヘイビア』 エステル・マセロ プロダクション・マネージャー Q&A
「人間の不寛容さというものを批判、またはその問題について指摘している」
『ビヘイビア』のプロダクション・マネージャー、エステル・マセロさん
20日(月・祝)に上映された長編コンペティション部門出品作『ビヘイビア』は、キューバの学校を舞台にした作品。貧困や過酷な環境のなかで行き場を失っていく生徒と、揺るぎない信念を持って生徒が抱える問題を引き受けていく教師の信頼の絆を、キューバの照りつける日差しから浮かび上がる乾いた映像で描く。
上映後のQ&Aには本作のプロダクション・マネージャーである、エステル・マセロさんが登壇した。挨拶と感謝の念を伝えるともに、気に入ってもらえたかと客席に問いかけると、会場は大きな拍手で返答。彼女の顔に満面の笑みが浮かんだ。
なによりも子どもたちの演技の素晴らしさに目を奪われる本作。出演した子どもたちは誰一人として演技の経験がなく、映画で描かれている環境で育った素人だったという。 マセロさんはまず、誰もが聞きたかったキャスティングの背景を語ってくれた。
「大規模なオーディションを4カ月から5カ月かけて行いました。少年院や矯正施設のようなところも訪問し、そのなかにいる子どもたちも候補に入れました。さらに、ハバナ市内でオーディションを行ったのですが、いわゆるこの映画の背景に似た経済的に貧困な地域で、同じような状況に置かれている子どもたちにもオーディションを受けてもらいました。実は主人公のチャラ役を演じたアルマンド(・バルデス・フレイレ)くんは、オーディションの最終日に顔を出したんですよ。
最終的に子どもたちは3人にまで絞られました。その後、3人とも個別に同じトレーニングメニューが与えられました。さまざまなトレーニングを1カ月行った結果、最終的にチャラはアルマンドくんが演じることになりました。残りの2人も映画に出演しています」
子どもたちの演技とともに作品を印象付けているのは、鉄道や船が行き交う街の景色だ。この地がなぜ選ばれたのか。そこには確固たる理由があった。
「この地域は旧ハバナ市街と言われる場所です。歴史的に由緒ある場所であり、多くの観光客が訪れる地域でもありますが、経済的には貧しい地域です。そして監督が生まれ育った地域でもあります。映画の子どもたちが経験していることは、幼いころに監督自身が経験し、また監督の子どもたちも同じような経験をしてきているのです」
生徒と教師。そしてキューバの学校を舞台に『ビヘイビア』で訴えたかったことはなんだったのか。マセロさんは体制への批判ではないと前置きしたうえで、「難しいシチュエーションに直面した際、ひとりの人間としてうまく対応できない人、臨機応変な対応ができない人、許してあげることができない人がいます。この映画は、そういう人間の不寛容さというものを批判、またはその問題について指摘しているのです」と真摯に告げた。
彼女はさらに、「カルメラは実在する教師をモデルにしています。撮影時には実際に多くの助言をいただきました。この映画は、ストーリーのメッセージとは別に、教師という職業全体に対して、あらゆる時代の教師に対して、敬意をはらうというメッセージも発信している映画だと思います」と、本作の持つもうひとつの役割も明かしてくれた。
『ビヘイビア』は、24日(金)にも午後2:30から多目的ホールで上映される。マセロさんのQ&Aも予定されている。