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【デイリーニュース】 vol.19 『あした生きるという旅』内田英恵監督Q&A
「難病を抱える方に対する自分の先入観が崩された」
左から『あした生きるという旅』の内田英恵監督、塚田公子さん(中央)、息子さんの塚田学さん(右)
長編コンペティション出品作品中、唯一のドキュメンタリー映画『あした生きるという旅』。難病ALS(筋委縮性側索硬化症)を抱える夫と、彼を支える妻の闘病生活を記録した、感動的かつ、明るく愛に満ちた作品だ。上映終了後、内田英恵監督と、出演者である塚田公子さん、塚田学さんを招いてのQ&Aが行われた。
本作の主人公は、48歳でALSを発症し、全身の筋肉機能が麻痺し、呼吸もままならなく、眼球の動きで自分の意思を伝える塚田宏さん。そして、彼を献身的に支え、愛し、共に生きる妻・公子さんだ。本作を作るに至った経緯について、内田監督は語る。
「当時、私は映像の企画・制作会社に勤めていたのですが、上司から、塚田さんの日常を撮影する仕事の話を受けまして、それがお二人とのご縁の始まりでした。初めてお会いしたとき、公子さんの淹れたコーヒーを、塚田さんはベッドに仰向けになった状態で、チューブを使って飲まれていたんです。『この人、コーヒー大好きなのよ』と、公子さんは笑っておっしゃって……難病を抱える方とそのご家族、というものに対する自分の中の先入観が一気に崩されて、おふたりを撮影したい! という思いに突き動かされました」
そうして塚田さんご夫妻を被写体にした短編ドキュメンタリー製作を経て、長編である本作に取り組んだとのこと。夫・宏さんとの生活を振り返って、公子さんは語る。
「夫との生活は、毎日が濃密でした。病になったことで、失うものがなくなって、得るものしかなくなったのです。いろいろな人と出会って、助けられて、世界が広がりました。映画の中で彼が、この作品は自分にとっての“生きた証”だと伝えてくれましたが、本当にそう思います。彼は2013年に亡くなりましたが、入院中のある日のこと、『あ、今日がその日なのかな』という予感がなんとなくはたらいて、『お友だちをたくさん呼びましょうか?』と、友人やミュージシャンのお友だちの方がたを呼んで、病室で演奏をする許可をいただいたんです。そして演奏が終わった瞬間、塚田は静かに亡くなりました。安らかな心で逝ってくれたら……と願わずにいられないのですが、ああいう送り方でよかったのだろうかと、いまも、いつでも思ってしまうんです。現在、私自身も癌を患っています。それでも、ALSという治療法も特効薬もない病を抱え、懸命に生きる姿を私に見せてくれた塚田と、いずれまた会えるだろうと思うと、楽しみでもあるのです。そのときに、『あの見送り方で良かった?』と、彼に尋ねたいと思います」
映画の中と同様に、チャーミングで強靭で、太陽のような存在感で公子さんは会場中を照らした。最後に内田監督は、観客に向けてのメッセージを伝えた。
「誰にでもいつか、何かを決断しなければならない瞬間が、人生には必ずあると思います。そのときに、自分以外の誰かに任せるのではなく、決断することから逃げるのではなく、自分の意思で考えて、決めたい。それがどんな結果になろうとも――そういうことを私は塚田さんご夫妻から学びました。そんな気持ちが、観てくださった皆さんにいくばくかでも伝えられたら、と切に願います」
次回の『あした生きるという旅』の上映は、25日(土)11時より多目的ホールにて行われ、内田監督、塚田公子さん、塚田学さん、音楽の田辺玄さんが登壇の予定。