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【デイリーニュース】 vol.21 15周年特別企画「名匠たちの軌跡」『A.K. ドキュメント黒澤明』『ドキュメンタリー:映画監督ミヒャエル・ハネケ』『映画が時代を写す時-侯孝賢とエドワード・ヤン』

世界の巨匠たちが描こうとしたものとは

15周年特別企画として「名匠たちの軌跡」と題し、『A.K. ドキュメント黒澤明』、『ドキュメンタリー:映画監督ミヒャエル・ハネケ』、『映画が時代を写す時-侯孝賢とエドワード・ヤン』と3本のドキュメンタリー映画が上映された。

15周年特別企画「名匠たちの軌跡」『A.K. ドキュメント黒澤明』

A.K.ドキュメント黒澤明』は、フランス人映像作家のクリス・マルケルが黒澤監督の『乱』のロケに密着した1985年の作品で、この日はフィルムでの上映。富士山の裾野で行われたロケを、馬、雨、霧、火などのテーマに分けて構成・分析し、「世界のクロサワ」が自然とも闘いながら、ライフワークと位置付けたけんらん豪華な戦国絵巻を、いかにして作り上げたかを追う。

 

A.K. ドキュメント黒澤明』 © 2003パリ・グリニッチ・フィルム社/アスミック・エース㈱

 

現場での黒澤監督の一挙手一投足をつぶさにとらえつつ、どちらかといえば仲代達矢らキャストより、スタッフや「名もなき富士のつわもの」と評されたエキストラの武士たちに焦点を当てた構成に、映画評論家の蓮實重彦氏によるルポ風の少し早口なナレーションが重なる。時折、映し出される富士山も、見えていた山肌が次第に雪に覆われていくことで時間の流れ、寒さが厳しくなっていく様子を、効果的に描出する。黒澤監督へのインタビューもあるが、本人の映像はなく、テープが回るカセットレコーダーから音声が流れてくる描写に時代を感じた。

 

15周年特別企画「名匠たちの軌跡」『ドキュメンタリー:映画監督ミヒャエル・ハネケ』

2013年製作の『ドキュメンタリー:映画監督ミヒャエル・ハネケ』は、ハネケ自身がカンヌ映画祭で最高賞パルム・ドールを受賞した『白いリボン』(09)から作品ごとに時代をさかのぼりながら振り返る。そして、2度目のパルム・ドールを獲得した当時の最新作『愛、アムール』(12)に戻って締めくくるドキュメンタリーとしてはオーソドックスなスタイルで、日本では15年の特集上映「ミヒャエル・ハネケの映画術」以来、2度目の上映となった。

 

ドキュメンタリー:映画監督ミヒャエル・ハネケ』 © Yves Montmayeur / WILDart FILM

 

ハネケは、「私は常に真実を追求し、観客と向き合っている。できることだけをやりながら、前に進むだけ」などと持論を展開。ジャン=ルイ・トランティニャン、イザベル・ユペールら証言者も一様に「ふだんは穏やかで優しい」と声をそろえる。だが、映画作りになると変ぼうするようで、トランティニャンは「テロリストのような要求をしてくる」、ユペールも「彼のスタイルは、一生変わらないでしょうね」と、独特の表現でその独創性を評しているのが興味深い。

 

15周年特別企画「名匠たちの軌跡」『映画が時代を写す時-侯孝賢とエドワード・ヤン

今年のカンヌでパルム・ドールに輝いた『万引き家族』の是枝裕和監督が、映画監督デビュー前の1993年に演出したテレビドキュメンタリーが『映画が時代を写す時-侯孝賢とエドワード・ヤン』。台湾ニューウェーブの旗手で同世代だが、当時は距離を置いていた2人の映画作りに対する姿勢に迫る。

 

映画が時代を写す時-侯孝賢とエドワード・ヤン』 提供:テレビマンユニオン

 

『悲情城市』(89)などの侯監督は、台湾の歴史的背景を念頭に置き、「中華民族とは何であるかを探し続ける」と話し、『ヤンヤン 夏の想い出』(00)が遺作となったヤン監督は「サスペンス、アクションがやりたい」と対象的なコメントを残した。

だが、2人とも戒厳令下をはじめ台湾の激動の時代を体験してきており、その時代時代で生きる人々、社会の闇を描いてきた。その視点は、映画監督・是枝裕和に少なからず影響を与えているのではないだろうか。

*         *

映画史を語る上で欠かせない「監督」のドキュメンタリーを、3作品一気に観ることができた貴重な体験。特集上映によって、映画祭はさらに豊かに、意義のあるものになっていく。ひとつのテーマと向き合い、さまざまなポイントから味わうことのできる機会となった。


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