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【デイリーニュース】 vol.08 『喪が明ける日に』 アサフ・ポロンスキー監督 Q&A
どんな条件のもとにも日常があり、それを生きることの辛さがある
『喪が明ける日に』のアサフ・ポロンスキー監督
3日目を迎えたSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2017。本日の長編コンペティション部門1本目の上映は、イスラエルの『喪が明ける日に』。監督のアサフ・ポロンスキーの長編デビュー作で、カンヌ国際映画祭批評家週間、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭、AFIなど国際映画祭を歴戦し、高評価を得てきた。
息子を亡くしたエヤル(シャイ・アヴィヴィ)とヴィッキー(エヴゲニア・ドディナ)夫妻の喪は明日あけようとしていた。シヴァと呼ばれるユダヤ教の喪は、家族が弔問客を受け入れる形で7日間続く。明日からは日常生活に戻るのだが、エヤルはその気になれない。なにかが彼の心を塞いでいたのだ。息子の医療用大麻で憂さを晴らそうとするが使い方が分からず、隣の息子ズーラー(トメル・カポン)を呼び出す。エヤルは隣家の夫妻を快く思っていない。だが、皮肉なことに彼の心に風穴を開けたのは、そんな隣人の息子だった……。
上映後のQ&Aには、アサフ・ポロンスキー監督が登壇。最初の質問は、「イスラエルといえば、いまだ解決していないパレスチナとの問題があるが、映画に描かれる隣人との争いと和解、若い世代と親の世代の確執などは、そういったことを意識して描いているのか?」というもの。これに対して監督は、「意識はしていませんでしたが、隣人をどう扱うかといったテーマは潜在意識のなかにあるのかもしれません。どこの映画祭でもイスラエルの監督なのになぜ政治的な作品を作らないのか? と聞かれます。でもイスラエルにも日常があり、それを生きることすら精一杯であったりするわけです。でもこういう質問をしていただくのはありがたいと思っています」。
喜怒哀楽、複雑に絡み合う人間の感情は、悲しい時に泣き、嬉しい時に笑うとは限らない。だからこそ、喪に服す夫婦の話なのに、本作には笑いも怒りも涙も昂揚感もある。エヤルが唐突に隣人宅を訪ね、夫婦の営みの声に苦言を呈すシーンがある。「なぜいま?」と問う夫人に、理不尽にも平手打ちをするのだ。彼は別な不満を、こういう形でぶつけているのだ。だが、それによって長年表層的に付き合ってきた隣人に殴り込まれ、初めて体裁を繕わない姿で取っ組み合う……。ひと言では表現できない、この複雑な脚本を、ポロンスキーは5年がかりで作りあげたのだそう。そして最後の1年は、最大限盛り込んだ要素を削り込んでいく作業だったと監督。
そぎ落とされなかったエピソードの中に、息子が入院していたホスピスで出会った少女と、疑似手術に臨むシーンがある。カラフルなベッドカバーやコサージュに彩られた病室で、陽の光を浴びながら、少女の母親と思われる女性患者に、隣家の息子や少女と3人でパントマイムのように手術を行う。このファンタスティックなシーンを撮るにあたり、ポロンスキー監督は二の足を踏んだという。「エヤルはこの時、初めて目を開き、他人に気づいて、進化を遂げるのです。彼の転換点となるシーンですが、撮影には怖さを感じました。ファンタスティックなシーンゆえ、下手をするとすべてが台無しになってしまうかもしれなかったからです」と吐露する。このシーンは、3時間半かけて即興劇のように撮り、その指揮はズーラーを演じたトメル・カポンに託したと教えてくれた。
アメリカで生まれ、アメリカ(LAのアメリカン・フィルム・インスティテュート)で映画の勉強をしたポロンスキー監督。好きな監督と映画を問われ、「強いてあげるとすると、ジム・ジャームッシュとコーエン兄弟かな」と答えた。好きな映画は『卒業』だという。
『喪が明ける日に』は、7月20日(木)14時30分より多目的ホールにて上映が行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。